破急風光帖

 

★  日日行行(570)

2022.10.08

* またしても訃報。作曲家の一柳慧さん(89歳)。
 東大本郷での講義に行く前に近くのカフェで遅いランチだったのですが、スマホの情報で訃報を知って気持ちが乱れました。わたしは、去年の2月13日に神奈川県民ホールのコンサートのあと、瞬間ですが、お目にかかってご挨拶したのが最後でした。とてもおお元気そうだったのですが・・・またしても、わたしに貴重な活躍の場を与えてくださった方が逝ってしまうのか、と悲しいです。

  なにしろ2002年から5年間、毎年1月に神奈川県立音楽堂で「21世紀における芸術の役割』というシンポジウムのモデレーターをつとめさせてもらいました。1年目は安藤忠雄さん、2年目は中沢新一さんや藤枝守さんら、3年目は科学者の池内了さんや中村桂子さん、4年目は一柳さんもピアノを弾いて、アーティストの岡崎乾二郎さんや、ダンサーの山田うんさん、5年目はアーティストの川俣正などにご登壇いただきました。その記録は未来社から刊行されています。
 多くの出会いがありました。でも、その出会いの場をつくってくれたのは、いつも、わたしという存在を認めてくれた「先輩」あるいは「兄さん」たちでした。ありがたいことでした。人生、これ以上の「贈与」なんてありません。
 一柳さんの面影に引っ張られるように、来日したジョン・ケージに瞬間的に挨拶を送ったことを思い出します。「前衛」の時代でした。
 もういまの時代には、「前衛」はありません。未来社から出ているその記録集『21世紀における芸術の役割』の最後に、わたしは、「いま、芸術とは何か?−−芸術の倫理化に向けて」という総括テクストを載せているのですが、そこで予言しているように、世界はすべて「趣味の政治」に突入してしまっています。わたしは書いていました、「芸術は、最後には、われわれを商品も趣味もない場所、わrわれにとっては、きわめて懐かしい場所であると同時に途方もなく他であるような場所、無限の他へと関係づけられるような無名の場所へと立たせるのです」と。
 一柳さん、そのような場所へと還って行くあなたに、この言葉を再度、お送りすることをおゆるしください。ア・リ・ガ・ト・ウ!
 


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