破急風光帖

 

★  日日行行(546)

2022.04.14

* ひと月前の本ブログにオペラ『椿姫』を観に行ったことを書きました。そのときに一枚またチケットを買ったので、今週、また観に行きました。今度は「ばらの騎士」。わたしのパースペクティブにおいては、モーツァルトからはじまった近代オペラの最後の作品です。オペラは、これで完結!という感じがします。それ以降、オペラという形式は、ミュージカルに持って行かれてしまいますから。

 今回の上演、わたしにとっては、なんといっても元帥夫人役のアンネッテ・ダッシュの気品がすべてでした。このオペラ、まさにオペラそのもののパロディですらあるのですが、それを最後にまとめるのが、「すべてに終りがある」ことを知ってしまった元帥夫人の高貴。この「マリー・テレーズ」の美しさこそ、この作品のすべてです(それについて、昔、カルロス・クライバーについてのテクストのなかで書いたことがありますね、『光のオペラ』の冒頭テクストでした)。そして、アンネッテ・ダッシュの姿のなかに、その声のなかには、たしかにその気品がありましたね。感動しました。最後の三重唱、泣けました。それこそが、われわれに届けられた「銀の薔薇」。とんでもない虚構ですが、それが、ほんとうに香しく匂い立つ、それこそオペラの贅沢なんですね。
 サッシャ・ゲッツエルの指揮も、遠近法を巧みに使ったジョナサン・ミラーの演出もよかったです。日本人歌手のなかでは、妻屋秀和のオックス男爵が力のある好演でした。

 このシーズン、コロナ禍や海外の戦争など暗い重苦しい世界状況のなかで、なぜか、オペラに一筋の一瞬の「希望」を見出そうとしたのかもしれませんね。
 そういう自分をゆるします。(だって、それ以外に、とくに趣味も娯楽もなにもない人生おくってきているんだから・・・ただ一本の「銀の薔薇」!と、これは言い訳かな?)


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