破急風光帖

 

★  日日行行(543)

2022.03.28

* 朝、なぜかシャンソンのCDを聴いていました。そして、「ミラボー橋」のles jours s'en vont, je demeure (日々は過ぎ去り、わたしはとどまる)に心を添わせながら、Macをあけてメールをチェックすると、パリから悲しい報せが!INALCO(東洋語大学)の教授だった、わが旧友、エジプト人のハシェム・ホダ逝去の報せ・・・言葉を失います。

 最近はまったく顔をあわせていなかったのですが、なにしろわたしのパリ留学時代のいちばんの友人。いっしょに旅行もしたことがあるし、精神分析家のジャン=ルイ・ゴーさんと三人で、ラカンの本の読書会もやってました。パリ第10大学ナンテールの、テクスト記号論学科の同級生だったのですが、かれの頭脳の冴えに圧倒されましたね。わたしが、「ああ、とてもかなわないな」と思った人はたくさんいるのですが、そのうちのひとりです。デリダについて喋っていて、なるほど、わたしの理解はそこまで及ばない、負けました、といつも思っていました。デリダもかれのことをとってもかっていましたね。かれの住居が15区にあったときは、パリに行ったときに会ってお喋りしていたのですが、最近は、かれが引っ越したこともあって交流が途絶えていました。そのかれの教え子からの衝撃のメールでした。
 だから、わたしなりの追悼の儀礼なのですが、午後に、ポリーニのピアノで、ショパンの第2ソナタの3、4楽章を聴いてかれを偲びました。かれも「詩」の人でしたね。もっとアラビア語の詩の話をきいておくんだった・・・悔やまれます。
 これからかつて2、3度会ったことのあるかれの奥さんに、哀悼のメールを届けようと思います。
春の夜・・・悲しいです。


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