破急風光帖

 

★  日日行行(512)

2021.11.28

* 昨日の土曜、久しぶりにマネについて語りました。朝日カルチャーセンターでの講義、「一枚の絵」という依頼に、マネの「フォリー=ベルジェールのバー」が浮かび、これを語ってみようと思ったのでした。なにしろ、あれこそ「密の蜜」の文化の結晶!あそこに凝縮している「密」の文化がいま、終ろうとしているのか、どうなのか?その「いま」を考えるためにも、あの一枚の絵と対話してもいいのではないか、と思ったのでした。

 なにしろ、マネはわたしの卒業論文のテーマだったし、表象文化論的視点から西洋絵画の歴史を講じた『絵画の冒険』でも、マネだけは2章を割いているし、特別な存在・・・その結果、十数年前には、銀座のあるギャラリーでマネの「オランピア」の版画(マネ自身によるものですよ!)を見つけたときには、つい購入してしまいましたね。そして時々、「ぼくはマネの「オランピア」の本物!(版画ですが本物!です)もっているんだ!」と自慢?していたのですが・・・・
 だから、喋ることはたくさんある。しかし、やっぱりマネ!今週、なにを語ろうかと考えているうちに、この絵についていままであまりちゃんと考えてこなかった問題が浮上してきて(あの有名な鏡像の問題ではないですよ!それについてはすでにフーコーに応答する論を書いていますから)、昨日の朝になっても頭を悩ませるというクルクル状態。いや、たとえば、画面のいちばん手前のカウンターの大理石のことを問いはじめるというようなことですが・・・いずれにしても、ひさしぶりに戻ってきたマネと対話することができてスリリングでした(受講生の方々にそれをうまく伝えられたかどうかはわかりませんが・・・)。遠隔の講義でしたが、技術的なことで自信がなかったので、わざわざ新宿まで(重いカタログなどももって)出かけて行って、誰もいないからっぽの教室で講義しましたが、ある意味では!まさにマネのあの絵のバーメイドのようでした。カウンターのかわりにコンピューターがあって、その向こうは誰もいない空間、「無」の空間。その「無」の途方もない輝き!わたしもあのバーメイドのSuzonのように、じっと「無」を見つめていた・・・かな?

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