★ 日日行行(498)
2021.10.12
* パリに着いて10日近く。身体もすっかりなじんで。昨日、ボヤン・マンチェフと二人で書いている、岩波の「思想」のためのジャン=リュック・ナンシー追悼のテクストを終えたので少しほっとしています。ですが、さきほどちょっとしたショックがありました。
今回はじめて書店に行ってみたのです。コンヴァンションというところにあるガリマール書店系列のLe Divanという大きな書店です。で、哲学のところに行ったのですが、ナンシーの本が平積みになっているかな、と予想していたのに、そんなことはない。なんと!!かれの本は棚に3冊しかない(そのうちの1冊はわたしが買いました)。えっ、と驚いて、デリダは?と棚を探すと、なんと8冊だけ。驚きでしたね。やはり去年、わたしが刊行した2冊で「煉獄のフランス現代哲学」と形容したのは、リアリティなんだ、しかもこれほど深く!ああ、時代は変わる。わたしが生きた時代は完全に終ったとつくづく思いました。
だからもちろん、わたしの知らない著者の本がたくさんあるわけですが、そのタイトルやスローガンには、「文学の後」とか、「アートの終焉」とか、そんな言葉もちらほら。一挙に文化が変わっていく、ということを痛切に実感しました。
まあ、考えてみれば、わたしが20歳のとき、まさにそのような激しい文化の転換がパリからやってきたんでしたね。構造主義、ポスト構造主義、記号学・・・その新しい「知」を、わたしは生きようとしたわけで、半世紀経って、また新しい文化、情報テクノロジーに裏打ちされた、わたしの想像を絶する文化がもうはじまっているんですね。
ナンシーへの追悼が、同時に、ひとつの時代への追悼にもなりました。そんなパリの秋です。