★ 日日行行(489)
2021.09.18
* 今日は、国立劇場に文楽を観に行きました。予定していたわけではないのですが、妻が用意していたチケットを、彼女が大学の業務もあって行けなくなったので、わたしがかわりに行ったのでした。5月に文楽を観に行ったことは当ブログ[445]で書いていますが、それに続いてまた。どうも今年は文楽が戻ってくる年周りなのかもしれません。演目は、「伊賀越道中双六」でした。
どの段もよかったけど、やはりわたしには、「沼津の段」の「後」がよかったですね。今風に言うなら、「子ゆえの闇も二道に分けて命を塵芥」、ダブルバインドをみずから命を捨てることで引き受けるという劇(ドラマ)。竹本千歳大夫の浄瑠璃と豊澤富助の三味線に心を振るわせました。しかし、近松半二のとても混みいった複雑な10段のドラマ構成から、6段目と9段目を抜き出して上演するわけですから、もちろんその意図はわかるのですが、なかなか追っていくのが難しいところもありますね。複雑な大きな運命の絡みが、ひとつの特異なモーメントに凝縮される、親子兄弟というようなもっとも根本的な関係が、人生でただ一瞬一時、それとして当事者に認識される、しかもひとりの「死」と引き換えに。
ずいぶん誇張されているようにも思われますが、わたしは、むしろこちらのほうが「真実」である、と認識しますね。一瞬のモーメント、その特異性のうちにこそ、真理がその影を落すと。時間が連続だとしたら(そうではないと思っているのですが)、そこに非時間が点る!・・・あっ、なにか思考が暴走してますね・・・ともかくあのときに背後から届いた胡弓の響きが忘れられません。