破急風光帖

 

★  日日行行(470)

2021.07.15

* 「心臓の鼓動が響く。風鈴がちりんと鳴る。ささやきが聞えてくる。眼差しが注がれる。誰の鼓動なのか。誰のささやきなのか。誰の眼差しなのか。もちろん、〈わたし〉のものではない。でも、〈わたし〉のものではないと言い切るその手前に、あるいは、わずかな向こうに、〈わたし〉がそこから構成されてきたのかもしれない〈わたしではないもの〉の空洞がぽっかりあいているのかもしれない。空洞とは、執拗に残り続けるものたちで充満している。そのからっぽの充満と、われわれもまた、どこまでも不器用に、遊び続けるしかないのではないだろうか、ねえ、クリスチャン」。

 今朝、クリスチャン・ボルタンスキーの訃報、76歳。5年前、庭園美術館のかれの「アニミタス さざめく亡霊たち」(Animitas Les âmes qui murmurent)展カタログに書かせていただいた拙文の末尾です。このオープニングで、一言、クリスチャンに挨拶したことを思い出します。
 風鈴の音が聞えてきます。風もないのに。


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