破急風光帖

 

★  日日行行(465)

2021.07.08

* 読書(2)。今度は、フランス語だな。二日前に書棚から取り出した一冊の本、最近のものではなく、20年以上前のもの。そのとき目は通しているはずですが、何気なく手にとって読みはじめたら、まるではじめて読むように新鮮な響きが立ち昇ります。「ことばは暗闇のなかを進む。空間は広がるのではなく、聞かれるのだ。ことばによって、物質は開かれ、語に穿たれる。畳まれていた現実が広げられるのだ」(p.19)ーーーたまたま開けた頁に書かれていたいくつかの語。(これだって、s'étendreとs'entendreという二つの動詞の響き合いを翻訳することなんてできないんですけどね!)

 この本、表紙裏に、献辞が書かれています。とてもユニークな献辞です。
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そう、「Yasuoへ 友情とともに   能の島で Valère Novarina 東京 2001年 7月  6 か 7 日」ーーーそう、正確に20年前、ノヴァリナさんが東大にいらしたときかしら?お会いして、いただいた本「Devant la parole」(ことばの前で)です。
 その後、どういう文脈だったか、すっかり忘れているのですが、パリのノヴァリナさんのお宅にもお邪魔した記憶がありますね、とても短い時間だったはずだけど。それとそれから何年か後かな、オデオン座の近くの画廊で、かれのトークの会があったときに参加したはずです。
 でも、記憶がはっきりしない。だめですね、素晴らしい人に出会っているのに、その出会いがきちんと記憶されていなくて。でも、読み返してみても、この文章素晴らしい。「ことば」というものが、情報伝達や思想(意見)の伝達なんかではないことが、これほど明確に表現されているとは!共感しますね。それが、かれにとっては、「演劇」というものだったのですが、わたしにとっては、それは「詩」ですね。「詩」も「演劇」です。そう、「ことば」の劇(ドラマ)です。そこには、「わたし」などというものは消えてしまっているのです。
 


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