破急風光帖

 

★  日日行行(323)

2020.04.13

* 「自分無く 自然無く 息一つになること也.この世の最初にあった息を 今 しつづけること也」。

 誰の言葉かというと、野口整体・創始者の野口晴哉の言葉、昭和21年1月。敗戦直後ですね。
整理の途中にたまたま出てきたコピーにあった言葉ですが、この「息」が「自分の息」ではなく、「宇宙の息」であるという言葉に、いま世界を覆っているコロナ肺炎で、まさに「息」を止められている人たちの苦しみを思って、なにか尋常ならざる思いがしました。
 野口晴哉は、この文章で「治療するといふこと」は「自然の息に生くること也」ということを言っているので、いかなる治療もできないわたしには、高嶺の花の言葉なのですが、それでも、息をして、これが自分の息ではない宇宙の息だ、「この世の最初にあった息」だと言える境地に思いをいたしたりします。
 これこそ、実践的な「息」の「哲学」。「哲学」って、ほんとうは、こういうものでなければならないと思いますけどねえ。それを生きられなければ意味がない。

 野口晴哉の本は随分、読んだと思います。
 最近、本棚を整理していて、文庫本で同じものを複数買っているものがあることに気づいたのですが、そのなかに野口晴哉『風邪の効用』がありました。
 では、他の本はなんだったでしょう?
 ひとつは、わが指導教授であった阿部良雄先生の『群集の中の芸術家』(ちくま学芸と中公文庫と違う版です)、あとは同じ岩波文庫で、井筒俊彦『イスラーム文化』、そして『創世記』、『出エジプト記』、さらにゲーデル『不完全性定理』!です。
 おかしいでしょう?ため「息」がでます。もちろん、宇宙のではなく、わたしの「ため息」です。


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