破急風光帖

 

★  日日行行(257)

2019.08.26

* 「おまえが行動すれば、それに合わせて関連性が生まれていく。ここはそういう場所なのだ」。とこれは、「顔のない男」が言う言葉。村上春樹の『騎士団長殺し』クライマックスの存在と無の境界を流れる「川」を渡る場面です。

 結局、ブログをアップしている余裕はありませんでした。オーヴェルニュ地方のまるで「騎士団長殺し』の「小田原近く」の舞台設定のように、向かいの山がすぐそこに見える山の上で1週間をすごし、二日前にパリに戻りました。明日の夜には帰国の飛行機にのりこみます。
 行きの飛行機のなかで『騎士団長殺し』を読みはじめ前半の上巻は機内で読了。着いた翌日には、前後上下、全巻を読み終わっていました。いろいろな意味で、いまのわたしの心境には、通じるものがあって、これを夏に読むためにとっておいてよかったな、という感覚ですね。
 フランス人と結婚していながら、こんなふうに完全フランス式のヴァカンスをフランスですごすのは、2004年以来です。妻の弟や親友も来て、娘の親友一家も来て、大勢で毎日、フランス式に、ランチ/ディナーと野外でにぎやかに。こんなこともこれが人生最後かなあ・・・と思わないでもありませんが。
 パリも暑いけれど、湿気はなく、わたしには気持ちのいい夏の光です。
今日はこれからイレーネ・ボワゾベールさんのアトリエへ。わたしのフランス語の詩!に彼女が絵を寄せてくれて、ふたりで豪華なアーティスト・ブックをつくったのです。出来上がりが楽しみです。
 
 そうそう、水声社でつくっている、わが「庭」である雑誌『午前4時のブルー』第3号も刊行されたようです。わたしはまだ手にとっていませんが、みなさま、どうぞ、ご支援くださいませ。
 今回の特集は「蜻蛉(とんぼ)」です。
 ついでに言えば、Oxford出版からも、数年前にわたしが書いた「駒場カルテット」についてのテクストを含む「日本の哲学」の本が出版されたと連絡が来ました。ささやかではありますが、わたしにとっては、「収穫の秋」かな。英語、仏語、日本語と3つの言語で、それぞれまったく違うジャンルのテクストです。これも、ある意味では、わたしが「行動」することで生まれた「関連性」かもしれませんね。
 でも、わかっています。関連性とはこのような光の世界のなかのことだけではなく、それが裏にひそめている「影」にかかわることなのだ、と。「影』、それは、場合によっては、とても激しいものなんですね。それは、「わたし」という力までを奪ってしまうことがある。でも、そうなると、「騎士団長殺し」のような「小説」は書けないんですね。視点がない、視点をもてない。でも、まさにその「オペラ」のなかに登場しているんです。不思議なことですね。


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