夜には、またロハンの中庭、サンドラのお家へ。前日から、イタリアのトリエステからロシア人のピアニストのナタリアさんが来ているというので、わたしを招いてくれて４人で夕食。ナタリアさんとは２年前くらいに同じくサンドラの家で会ったことがあって、そのときピアノを弾いてくれたけど、さあ、今回は？
　で、食事のあいだにもすでに、ベートーヴェンの話で盛り上がり、「月光」の話になると、デザートも終っていたので、さっとピアノへ。そのまま「月光」を弾き出す。これがどれくらい深い絶望の曲であるか、を教えてくれる。鍵盤を自由に動く彼女の指をすぐ後ろで見ながら、やはり泣けてきますねえ。なんというレッスンでしょう。
　そして、そのあとに今夜のために用意しておいてくれたショパンの「オペラの主題による変奏曲」をダイナミックに弾いてくれました。OP２だそうで、わたしは一度も聴いたことのなかった曲。「ドン・ジョヴァンニ」の歌がモチーフ。すばらしい演奏。なにしろ、前回も、話の途中に、鍵盤に背中を見せたままでなんなく曲を弾いてしまった人ですから。今回も演奏のあとで話をしている最中に突然、バッハのイギリス組曲だったか、横向いたまま弾いてましたね。３人のためだけの演奏会。なんと贅沢なことか。
　いつか日本でナタリアさんの演奏会を開きたいですね。一度、行ってみたい、憧れだわ、と言ってくれていますし。毎回お会いするたびに、音楽の深さについて学びます。前回は、チャイコフスキーの秘密についてでしたが、今回は、ベートーベン、そしてピアノを演奏するということはどういうことか、について。ほんとうのアーティストだけが口にできる言葉がたくさんありました。
　三日続きの大きな月がパリの夜空に輝いています。優雅な夜でありました。