破急風光帖

 

★  日日行行(218)

2019.02.18

* (つづき)前項のカトリーヌさん、彼女が突然、駒場の研究室にわたしを訪ねてきたのは、1996年だったかなあ。あなたといっしょに風景についての共同研究をしたい、と。びっくりでしたが、それなら、とトヨタ財団の研究費をふたりで申請してみたら、通ってしまって、3年間、わたしもフランスなどに調査に行くことができるようになりました。

 で、彼女とは、東京、直島、ストラスブール、パリほかでシンポジウムなどをいっしょに開催したり、と長い研究者仲間なのですが、彼女は、わたしと会って喋っているときに、かならずメモ帖を出していて、わたしがなにかを言うと、細かな字でそれを書きとったりします。学生も含めて、日本人で、誰もそのようにわたしの言葉を受けとめてくれる人なんていませんから。なんだろう、わたしの思考をほんとうに大事に思ってくれているということがよくわかります。他者を尊敬するということがどういうことか、日本の「忖度社会」の結局は、「自分をわかって、あんたのことは興味ない」、みたいな人間関係とはちがうんですね。学ぶことが多いです。

 土曜にお会いしたもうひとり、イレーヌさんもそう。わたしのコレージュ・ド・フランスの講義を聴きにきてくれたヴァンサンさんのパートナーで、芸術家。かれらから頼まれて、「風」というテーマで日本の詩を集めて、アーティスト・ブックを作成し、それをわたしがオーガナイズして、京都や博多でも展示する機会をもうけたのですが、そのご縁は続いていて、1年前から、今度は、イレーヌさんから、「あなたのテクストをちょうだい、それにわたしが絵を描いて、アーティスト・ブックをつくりたいの」と言われています。詩人でも小説家でもないわたしに、本気でそれを頼んでくれる、わたしにそれが可能であり、わたしがそれに値すると思ってくれている。ベケットや、聖書の「雅歌」や、ヴァージニア・ウルフのテクストに匹敵するものが、わたしの筆から生まれると信じてくれている。嬉しいけれど、わたし自身はそんな自信はないし、1年以上も結局、なにも書けなかったのですが、先日、お会いして話した帰り、それならやはり「水」で行こう、と心が決まりました。さあ、どうなるかな。

 どちらも、ひとをもとめることについて、まっすぐ、という感じがしますね。そして、相手の「精神」のあり方を見ている。その目はとても厳しいのでもある。でも一度、信じられると判断したら、何年たっても変わりませんね。長く続きます。で、今日も昼に、サンドラさんに会いに行くことになっています。
 
 


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