破急風光帖

 

★  日日行行(217)

2019.02.18

* ひさしぶりに、レベルの高い知的な議論の展開に興奮しました。ここまでのレベルというのは昔デリダの講義を聴いて圧倒されたとき以来かもしれません。パリだなあ、これを与えてくれるのがわたしにとってのパリでした。

15区のシナゴーグの一室で、2時から7時まで、なんと5時間続くセミナー。今日のテーマは、聖書のマルコの第7章。イエスが「海の上を歩く」場面です。そのディコンストラクション的読解。最終的には、「イエスのほんとうの名(ファーストネーム)」は何だったか、という問題になる。それがなんと最後は、マヤ文明につながって終るという驚くべき展開。興奮しますねえ。言ってみれば、福音書のエクリチュールをユダヤ的伝統のほうからディコンストラクションする読解。大胆不敵だけどおもしろい、どこかわたし的な冒険があって共感できます。

 講師は、Mari-Alain Ouaknin.日本ではあまり知られていない名前かもしれないけど、ユダヤ教のラビでもあり、デリダとレヴィナスについて学んだ哲学者でもある。ある友人からこの人の存在を教えてもらって、本を読んでみたら、おもしろい。わたしより7歳若いけれど、きわめて多くのことがすでに共有できている稀な人。というわけで、この人の仕事が日本で紹介されていないのはおかしいと、自分の雑誌で、少しだけでも紹介しようかと、今回のパリ滞在に会ってみようとしたわけです。
 数日前にオデオンで会って、今日のセミナーを教えてもらって、でかけたわけですが、スリリングでしたねえ。講義のあと30分ばかりわたしの雑誌のためにインタビューをさせてもらいました。かれの本の一部も翻訳しようかなあ、と思っています。翻訳はきらいなわたしですが、やはり紹介しなければならない人をみつけたときは、そうするのが外国語を学んだ人間の義務ですからね。

 パリは春の陽気であたたかく、昨日は、モンパルナスで昼に、アーティストのイレーヌ・ボワゾベールさんと昼食、夜は、もう四半世紀のつきあいになるリール建築大学のカトリーヌ・グルーさんとルーブルの近くで夕食。古くからの友人、新しい友人、パリは出会いの場所なのですね。明日は、黒田アキさんや、わが「姉」のサンドラさんにも会うことになるかな。ほんとうにつくづく、出会いの多様さが自分の貧しさを補って、豊かなものを返してくれるように思います。他者を迎えいれ、他者に迎え入れられる。地上にこれ以上に重要なことなどなにひとつありません。
 


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