破急風光帖

 

★  日日行行(216)

2019.02.16

* Marquise, si mon visage a quelques traits un peu vieux.....侯爵のおくさま、わたしの顔がちょっと老けてございましても わたしの歳になれば あなたさまも同じこと もっとも美しいものに残酷な復讐をするのが時というもの あなたの薔薇も萎れますよ・・・とフランス語の歌が口をついてできました。

 たしかヴィヨンの詩だったか、ブラッサンスが歌っていた歌。それを歌いながら、ちょっと涙目で微笑して。モンマルトルの道をゆっくりと。

 今日、パリはまるで4月の陽気のような快晴の1日でした。ノルマンディーから妻の弟がやってきて、いっしょにトンカツを食べたあとで、かれに誘われて、モンマルトルのサクレ・クール寺院下のサン・ピエール・ホールでやっている日本の「Art Brut」展を観に行きました。なかなかいい展覧会でしたが、この地区は、わたしが留学生のころ、79年から81年まで住んでいた街区。メトロのアベスという駅に近いヴェロン街15番地。最近はすっかり左岸のモンパルナス界隈ばかりで、モンマルトルにはほんとひさしぶり。なつかしい。どこか「村」の雰囲気も消えずに残っていて。弟と別れたあと、夕方、ぶらぶらと歩きました。あまり変わっていないなあ、もう40年も経つのに。そうしたら、あれからなんと長い時間が流れたことかと少し感傷的になってきた。レストランなどはいっぱいあるけど、学生時代、どこにも入ったことはなかったな。お金もなかったし。でも、このルピック街の角の魚屋では、鱈とか買ったよなあ、と。ここでは野菜を買った、と。すぐ下はピガールの歓楽街なのに、もちろんなんの関係もなく、狭いワン・ルームの部屋でただ本を読み、論文を書いていた。わたしのパリの原点ですものね。歩いていると、自分の身体の奥に、それでも、この舗道の感覚が残っているのが戻ってきます。
 今週の前半は、南仏のわが村ビオットに行っていたのですが、今日思いがけずモンマルトルを歩くことになって、ブラッサンスの歌をずっと口ずさむモードに入ってしまいました。顔にはいくらか老いのtraits 線が刻まれているにしても、あの時の心は、まだ、残っているような気がします。ルピック街をブランシュ広場のほうに降りていきながら、顔は笑っていながら、目は涙ぐんでましたね。
 漂えども沈まず、Fluctuat mec mergitur パリの紋章です。

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