破急風光帖

 

★  日日行行(215)

2019.02.10

* 昨日のこと。午後、暖かな日も差してきて、春めいた気配。東京は大雪とか言っているけど、パリは晴れてるなあ、とカルチエ・ラタンでも少し散歩しようか、と。バスに乗ったのですが、2つ目のステーションで全員、降ろされた。

 パスツールというところだけど、道路が封鎖されている。しかたがないと降りて、車両規制を抜けて歩いていたら、向こうからやってくる「黄色いベスト」のデモ隊にぶつかりました。そうか、今日は土曜であった、と。先頭の男はトリコロールの国旗を振っている。黄色いベストを着た、まあ、ある意味、普通のフランス人たちのデモ。後ろは見届けられませんでしたが、数百を越える規模ではあった。こちらは観察しながら、すれちがい、でもメーヌ・アヴェニューに出たら、そこにはCRS(機動隊)の車両が二十台くらい並んでいる。そういえば、どこか道路の向こうでは、催涙弾なのか、爆発音も響いている。車は走ってなくて、警察車両がサイレンならして駆け回っているだけ。
 まあ、これくらいでは驚かないので、天気もいいし、そのまま歩き続けるわけですが、オデオンまで歩いたら、今度は、また別のデモ隊。こちらは数十人か。叫んでいるシュプヒコールがよくわからなかったのだけど、「Le loup(狼)」と言っているみたい。そのままやりすごして、こちらは古本屋に行ったりしたのですが、帰りに、サン・シュルピス教会の前を通ったら、その広場に、さきほどのデモ隊がいる。
 なんと白い狼のマスクをしている人たちもいて、ビニールのコートに黒の十字架をつけている。主張は、やはり「狼を殺すな!」「狼を保護しろ!」で、見ていると教会前の広場で、それぞれが何年何月何日と書いたプラカードをもっていて、それがどうもフランスで狼が殺された日付らしい。ひとりづつ前に出て膝まづき、すると司祭役らしい男がなにやら赤い血のような液体をビニールのコートにかけるというなんだかぞっとする儀式。おどろきですねえ。フランスという国は。
 フランスでは、土曜は、もうデモの日になったんでしょうか。でも、同時に、カルチエ・ラタンでは、多くの人が何知らぬ顔で週末のお買物。しかも、毎度のことながら、大きな道路の数百メートルおきには、物乞いをする人たちが座り込んでいるし。ともかく、対立し、闘争する、「社会」ということを感じないでは、パリを歩くことはできません。
 すべてが裏側にまわってしまう日本の「社会」のあり方とはちがった成り立ちがありますね。もっとも、商店や文化施設、わたしの友人の画廊なども、土曜は閉じなくてはいけなくなり、場合によっては、破壊も起こり、「もう、うんざりだ!」と叫んでもいるのですけれど。
 よくも悪くも、強烈に、パリにいるな、という感じがした土曜日でした。


↑ページの先頭へ