破急風光帖

 

★  日日行行(199)

2018.12.09

* ロ短調。それは「きわめて私的な調性である」とピアニストは言う。その響きに打ちのめされた。

 昨夜、サントリーホールで、イーヴォ・ポゴレリッチのコンサート。モーツァルトのロ短調の「アダージョ」とリストの「ピアノ・ソナタロ短調」、そして後半がシューマンの「交響的練習曲」。感動というのはたやすいが、それ以上、文字通りうちのめされました。ピアノとはこのようなものなのか、まるで夜の装置。人間を超えた「夜」が立ちのぼる。モーツァルトはわたしの知っているモーツァルトではなく、その底にひそむなんという悲しみ。そしてリスト、ピアノをききながら、わたしが思い出していたのは、なぜかジェリコーの「メデューズ号の筏」。世界は嵐だ、人間は難破の筏だ。そしてシューマン、ああ、ピアノの一音一音がなんと孤独なのか。その一音に涙。すごい衝撃的なコンサートでありました。
 フランスから帰って以来、このブログをアップする余裕はなく。本郷のEPプログラムで院生130名を相手に講義をし、土曜は朝日カルチャーセンターでジョットについて講義。そのあいまに、雑誌「未来」連載の原稿で、中上健次「千年の愉楽」と格闘しつつ、出版会の本の校正、だが、同時に、金曜の夜は日仏会館に吉田喜重さんの映画「シネマの夢 東京の夢」を観にいき、吉田喜重さんご夫妻とマチュー・カペルさんと楽しく会食、と楽しいのだけれど息つく暇もなし。師走ですね。それでもポゴレリッチは逃すわけにはいかない、と朝日カルチャーセンターの講義を終えてその足で直行しました。。
 そして今日、ようやく「未来』原稿は脱稿。いつものように無理が詰まった原稿ですけど、書きあげてほっとしました。フランスでも複雑で猥雑なこの傑作小説を読み返したりしていたので。結構、時間がかかっている。そして続けていま、出版会の本の「はしがき」も一応書きあげたので、ひさしぶりにブログに戻ってくることができました。すでに12月10日へと日付が変わる時間。2018年という年も終っていく。
 まだ、今週土曜の青山学院+朝日新聞のイベントもあり、NHKのテレビの収録も残っているから気はぬけませんが、毎年のこととはいえ、今年も途方もない激しい年でありました。なんとかここまで来れたという思いが強いです。


↑ページの先頭へ