破急風光帖

 

★  日日行行  (154)

2018.05.25

*4月の末にポルトガルのエシュポセンデで行われた国際指揮コンクール(The BMW International Conducting Masterclass and Competition)で、日本人初で、優勝したのが、木許裕介さん。駒場の大学院でのわたしの最後の授業に出てくれていた比較文学比較文化の学生でした。

 Bravo!すばらしい。世界の舞台で優勝するなんて!しかも、かれは、修士論文を書いたところで、博士課程に進むのではなく、指揮者の道を行くという果敢な選択。それがこのように花開こうとしている。嬉しいですねえ。しかも、かれは、メールで、「先生がフィリップ・ジャコテを読みながらおっしゃった、最も強烈な呼びかけこそが「詩」であり「祈り」あるという言葉を、最近指揮するたびによく思い出します…」と言ってくれるのです。優勝を決めたあとのメールでも、
「決勝で指揮したのはベートーヴェンの「コリオラン」序曲です。オーケストラ全員からの投票で順位が決定するコンクールでしたが、オーケストラ全員の持ち点総合計1850点中、なんと1563点を獲得することができ、満場一致の結果で単独優勝を飾ることができました。初日からポルトガル語でリハーサルを進めたことも効を奏したのかもしれません。作品の核心を端的な言葉で射抜く、という先生から教わった手つきは、リハーサルをするときにも活きています。」ーーーーわたし、ほんと泣きますね。そう、わたしが駒場で教えた(かった)こととは、それに尽きると思いますから。それを、指揮というまったくわたしから離れたフィールドで活かしてくれるなんて。

 というわけで、昨夜は、少し遅れたけれど、渋谷のレストランで、お祝いの宴を張りました。
 そこには、これも駒場でフランス語を教えた最後の学生のひとり吉野君も駆けつけてくれて、その吉野君が、文Ⅲから工学部の建築に進み、いまでは修士の1年生なのだけど、これも果敢な転換には、少なからずわたしの言葉の影響がある、と言ってくれました。
 そうだよね、知識なんて、みんな勝手に学べばいいのよ。わたしはその人のなかにある、その人のまだ知らないなにかを刺激したいだけなんですよね。そういうわたしの乱暴を真剣に受けとめてくれて、自分だけの道を進んでいる木許さん、吉野君に、感謝あるのみです。
 木許さんは、いまは、ボローニャのボローニャで指揮のアシスタントもしているらしいのですが、おいしいイタリアの赤ワインを飲みながら、まだ若い駒場の現役学生2名も一緒でしたが、楽しい宴ではありました。
 世界へと羽撃いてほしい。いまこそ、世界へと向わなければならない。日本という小さな世界にますます自閉しつつあるようにみえるこの国の文化のことを思うと、激しく、そう思います。駒場って、そういう場所のはずなのです。


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