破急風光帖

 

★  日日行行  (142)

2018.03.18

* わたしの左肩に小さな鳥が後ろ向きにのっている。わたしは両目を閉じて、瞑想か、あるいはもはや永遠の眠りか。

 またしても写真。しかもプロの写真家の写真です。ソフィアでアニの家の近くにすむ女性写真家のBoryanaさんがやって来て、ラジオのインタビューのあとに、わたしの写真を撮ってくれました。ところが、翌日になって、新ブルガリア大学での講演と天使の降臨の感動的シーンも終って、市内のレストランでの「ご苦労さん会」に行く途中の車のなかで、ボヤンの携帯がなり、ボルヤナさんから、もう一度、わたしの写真を撮りたいから、自宅のスタジオに来てくれ、と。ボヤンはどうする?と聞くのですが、わたしはもちろん、行こうよ、と。そのまま行って、彼女の家に行くと、7歳くらいの小さな男の子と10歳くらいの女の子が出てきて、わたしに、「あなたが日本の大統領なの?」と、でこの瞬間以来、ソフィアのあの界隈では、わたしは「日本の大統領」!ということになっているのです。
 彼女は、前日に撮った写真のまわりの本棚などの背景が邪魔だったようで、あらためて背景をグレーの濃淡のあるスクリーンにして、わたしの顔だけに集中したい、と。ただ、撮影のときに、なぜか、にっこり微笑んで、わたしの肩に、白木の、小さな鳥の置物を載せたのでした。
 その写真がボヤンから送られてきました。とても自分とは思えない顔ですが、こういうふうに、わたしの知らない「わたし」をつかまえてしまう写真というものの恐ろしさ、(じつはこの冬にも日本で経験しているのですが)あらためて不思議な感覚がしました。
 でも、ありがたいことですよね。いろいろな有名人を撮っているボルヤナさん、なんでこんなつまらないわたしの顔に興味をもったんだろう?
 ボヤンのメールによれば、ボルヤナさんは、映画監督のヴィム・ベンダースの友人でもあり、撮影者でもあるようで、先日、ソフィアに来たベンダースに、ボヤンとわたしの話しをして、「雲」のテクスト(わたしの詩がついてます)を渡したそうです。「ベルリン天使の詩」のヴェンダースに、ソフィアの「天使の詩」が渡ったわけで、世界はなるほど狭い。たった2、3人の「つながり」でヴェンダースまでつながりました。このどこにもわたしの意図/意思は働いていないので、わたしはただ映画の観客のようにスクリーンに映る、自分も登場しているフィルムを観ている感覚ですね。アイツ、あんなところに映ってんの、と微笑む。
 (この冬、日本で経験したもうひとつの写真の体験については、また稿をあらためましょう)。
昨夜は新月。春分ももうすぐ。萌え出でよ、わが水。そして、わが左肩の小鳥も、春の風に舞って、大きく空を飛んでおくれ。雀よりも小さな鳥。わが魂。そのように、あれかし!


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