★ 日日行行 (129)
* 「人生には、それと和解し、それに「よし」と言い、可能なら、「ありがとう」と言うことだけができることです。そして人生はそのためにだけあります。それは、なにかを成し遂げることによってでもなく、他人に承認されることによってでもなく、ただ自分が、すべてのこの不幸と悲惨において、しかしこれが、わたしの人生である、と確信することによって、そうしてそれをけっしてほかのなにかによっては補い可能ではないものとして引き受けるためにある。」
いま、ここでは明らかにしませんが、ある事情があって、ふと思いついて昔、自分がある人に送ったメールを探した。そうしたら、すっかり忘れていたのだけど、こんなことを書いているわたしがいました。エラソそうになあ、とも思うけど、そのときは、とても切羽詰まっていて、どうしてもこのことをこの方に伝えなければならない、それがわたしの使命だと思いこんでました。このメールは、パリで書いたのでした。そのときのことを、なぜか、思い返しています。
伏線は、モーツァルトの「魔笛」ですね。10年前になりますが、日生劇場の「魔笛」公演のプログラムに書いた短いテクストがあって、『こころのアポリア』の冒頭に収録されていますけど、そこで、「幸福」という「魔法」について書いていた。自分が書いたテクストのなかでも、もっとも好きなテクストのひとつなのですが、それと冒頭の言葉は、対角線上で向かいあっているように思います。先週、あるところで、美しい「夜の女王」に会った。そうしたら、頭のなかに、稲妻のようにアリアが響きわたり、5年前ウィーンのフォルクス・オーパーで、立ったままで観た「魔笛」のことが思い出されたのでありました。いや、いまこそ、かつてひとに向けて語った言葉を、自分自身に向けて言わなければならない、ということでしょうか。
「魔笛」はほんとうに、わが人生に随伴する作品です。最近、2、3年はそうしませんが、毎年、正月には、いくつももっているDVDのひとつを観るのがきまりでした。滅多に自宅で映像を見ることのないわたしなのですけどね。おきまりの「無人島にひとつだけ」という問いには、「魔笛」と答えるのではないでしょうか。これがあれば、生きていける。