破急風光帖

 

★   日日行行 (87)

2017.04.26

* 「そう、心(心臓)の鼓動はいつも二重だ、Diaがぼくたちにすみついていて、ぼくたちを動かす。そう、ぼくの思考のなかに君の思考の鼓動を、ぼくの心のなかに君の心をぼくは感じる。夜明けのアウラとともに、ぼくはいま、西に向けて発つ」

 というのは、昨日、ブルガリアに向けての帰路に旅立ったボイヤンからの最後のメール。Diaというのは、わたしがかれに語った「秘密」の名。ふたりできいたナンシーの講演がそこに接ぎ木されて、浸透している。たぶん、ふたりが共有している感覚というのは、きわめて哲学的なものでもある「詩」なのだと思いますね。だからこそ、雲についても、天使についても、自由に話しあえて、響きあえる。かれがダンテの「地獄」篇から出発して構想している作品があって、それに対して、わたしは、「煉獄」だなあ、と語りながら、ヴェネチアこそ「煉獄」で、今の季節のヴェネチアの藤の花の色がまさにわれわれの「罪の色」なのだよね、と語ると、翌日、かれは、朝、早く起きて文章を書いていたら、参考にした本のなかに、ヴェネチアこそ(ダンテの)地獄だと書いてあった、と。それに対して、いや、わたしのほうも、朝、ゲーデルの「悪魔」についてのフランス語の本を読み返していたら、そこにダンテの地獄篇が出てきたよ、と応酬するという具合。得難い友情です。

 昨日は、駒場で、桑田光平さんとともに、フランス現代詩を読む小さな会。公開するものではないのですが、UTCPのカレンダーがあまりに真っ白なのがさみしいので、当日だけど、イベント欄にアップしてもらいました。ルネ・シャールのLettera Amorosaというテクストを、わたしがひとりで2時間くらいコメントしました。そうやって、ひとに語ることでようやく自分のなかで、このテクストの姿が見えてくるようなこともあって、楽しい時間でした。シャールの詩の発話の「秘密」が少し理解できたかな。ほんとうに、わたしにとっては、フランス語(会話ではなく、ルネ・シャールのレベルのですが)は、plaisir です。「なかば流れ、なかば花」ーーー飛び散る断片の屑のなかに、射し込む光。「不在」とはまた「光」の別名でもある。
 


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