破急風光帖

 

★ 日日行行 (68)

2016.12.15

* 「真理は道にあらず」ーー突然、声ではないが、言葉が走りました。昨日の昼、所用があって地下鉄広尾駅のホームから外に出る狭い階段を登っているときに。

 続けて、「もちろん、美もまた道にあらず」、「善ですら、道にあらず」と続くのですが。この出来事の伏線は、前日、本郷のEMPのオフィスで、中島隆博さんの司会で、数理工学の合原先生、神経科学の尾藤先生と「心の語り方」について行った3時間に及ぶ鼎談の途中で、わたし自身が、ふたたびメタフィジックを企図しなければならない、そしてそれは、「道」のためににほかならない、と口走っていたことでしょう。
 でも、そのときの発言は、その日の昼、駒場で、人生の道の岐路に立つMさんに「きみが道を行くのではなく、道に『わたしを導け』と言えばいいんだよ」と、いつものように、勝手なことを言っていたことときっと関係がありますね。人間の思考というのは不思議なものだ、それ自体が「道」みたい。わたしが考えるのではなく、勝手に「道」がわたしを運ぶ。ケセラセラ。cogitoなしにsum, sum でしょうか。
 鼎談の前日は、京都からまっすぐにニューオータニで開かれたサントリー学芸賞の授賞式に参加しました。もと表象文化論の博士課程の学生で、いまは、青学の同僚となっている沖本幸子さんが著書『乱舞の中世ーー白拍子・乱拍子・猿楽』(吉川弘文館)で受賞したからです。この賞は、若い人たちが博論から一歩先にジャンプしてほんとうの自分の研究をした結果に与えられるもの。じつは、数多くの人を見て来て痛感しますが、この決定的に重要なジャンプをすることはなかなか難しいので、それをこういう形で評価する晴れの場があるのはいいですね。もちろん、「名誉栄光、これまた道ならず」ですけどね。
 昨日は、青学の学生たちとともに、森美術館の「宇宙と芸術」展を観に行きました。キュレーターの椿玲子さんにも少しお話をうかがって。曼荼羅からチーム・ラボの文字通り目眩のするような映像まで。充実した展覧会でした。
 今日は、火曜にお会いした医学部の尾藤先生の研究室を、東大の院生たちとおたずねして議論をたたかわせることになっています。
 そう、わたしの「道」があるとすれば、「乱舞」以外のなにものでもないですね。舞い続けるしかありません。
 


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