破急風光帖

 

★ 日日行行 (63)

2016.11.11

* すべてをトランプのせいにするわけではないが、水曜の開票日、冷たい風が内外を吹き抜けて、疲れも出たのだろう、しっかり風邪をひきました。前日、ソウルから戻って、激しかった嵐の一月半がようやく終ったという安堵で、気がゆるみましたね。

 ソウルは、ヨンセイ大学の白永瑞先生のお招きで、先生が主宰する「アジアと美」のセミナーでの発表。大学のファカルティ・ラウンジの豪華なセミナールームで、ディナーつきの講演という、わたしが予想もしていなかった展開に、少々びっくりしたのですが、かつて表象文化論の学生だったキム・ハンさんの見事な通訳で、安心してお話しできました。わたしが選んだテーマは、「草」。あえて典型的な「美」ではないものを選んで、そのカオス的なダイナミズムを、アジアの文化の根底に見出そうという視角。もちろん、和辻の『風土』からはじまって、西脇順三郎、柳田國男、高見順、木下杢太郎、種田山頭火といった人たちの「野草」への思いを取りあげました。それと並行して、もちろん魯迅の「野草」も。で、韓国ではどうか、という問いに、キム・ハンさんから金水泳という詩人の詩「草」を事前に、紹介してもらっていたのですが、その影響か、当日の朝、先週土曜の光化門前での韓国の人々のデモに刺激されてか、ヨンセイ大学のレジデンスで韓国式の朝食を食べているときに、ふと書きつけてしまった詩があって、講演冒頭に朗読したりしました。「草」を「民衆」と重ねるイメージを、自分なりに、「いま」の時点に対する呼びかけとして語ってみたのです。キムさんが、わたしを紹介するときに、わたしはむしろアカデミズムを破壊するパフォーマーなのだ、と言ってくれたのに、ぴったり呼応するものでした。そう、結局、わたしはある種の吟遊詩人ではある。白先生のご依頼にどれほどお応えできたのか、自信はありませんが、このようにUTCPを通じて、長年、おつきあいをさせていただいた先生からのお招き、ありがたかったです。キム・ハンさんにも深い感謝を。
 ソウルでは、キムさんと冷麺を食べに繰り出した以外には、どこにもいかず、ただヨンセイ大学の秋色深い林をひとりでぼんやり散歩するだけでした。先週の、鮎川信夫をめぐる樋口さんとのトークからはじまり、政治的に揺れるソウルの地での「草」の講演、そして帰国して、青学の授業(あいかわらず宮澤賢治ですけど)、そして昨夜の駒場での、なかなかスリリングな「脳と意識」の授業と続いて、さすがに今日は、「本日休演」かなあ。こんどの週末は羽田に行かなくていい、とほっとしています。
(ヨンセイ大学のゲストルームから見えた風景。VLBFを探査するパラボラアンテナ、これがぐるぐる動いているのでありました。不思議な光景でした。)

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