破急風光帖

 

☆ 秋のbillet (6)

2016.11.26

* 前回、羽田空港で書きつけた西脇順三郎的詩句、続きのBillet をまだアップしていないのですが、この間に、11月7日のソウル・ヨンセイ大学の講演の冒頭で、パフォーマンスしてしまった「草」についての詩をここに記録として残しておきます。

 いま思い出しても不思議ですが、がらんとした食堂で韓国式の朝食をいただきながら(大根のスープがおいしかったなあ)、生まれてはじめてのこと、スマホに何気なく言葉をうちこみはじめて、5分あまりでできた詩篇。そうだ、わたしは吟遊詩人だと、そのまま夕方、読み上げてしまったという次第でした。5日のソウルの光化門前の集会の様子を聞いて、前夜、キム・ハンさんの車でその広場を一周したことを思い出して書いたもの。もちろん、キムさんから教えていただいた金水泳という詩人の「草」の詩への、現在からの応答という文脈における言葉なので、下敷きのその有名な詩が思い出されない日本語では中途半端なのですが。(読み上げるとき若干、変更があったと思います。また、大統領が「朴」で「木」であることが織り込まれています、念のため)。

「草草・2016年11月ソウルにて」

漢江のほとりで
草が揺れる
草が唸る
草が叫ぶ

「わたしたちの木よ
あんなにも
孤独に
まっすぐに
天に向かって
突きたって
いたと思っていたのに
わたしたちの木よ
あなたの幹のなかは
そんなにも
枯れはてて
がらんどう
ヤドリギばかりが青々と
育っていたのか」と

草が揺れる
草が嘆く
草が動く
秋色に染まる漢江のほとりで
閉ざされた門の前で

だが、草が動く、と
風が起こり
雲が走り
雨が打ち寄せる

ほら、すでに
稲妻
すでに
雷鳴
時雨だろうか
嵐だろうか
知らず

だが、この雨の彼方
草草よ
光が差し込み
雨に濡れた君たちが
明るく笑う

それこそ
草の希望


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