★ 日日行行 (6)
★ しばらくご無沙汰でした。じつは、南仏を中心とした調査旅行に行っていて、昨夜、帰国したところです。
今回は、桑田光平さんが代表者となって今年度に獲得した科学研究費をつかっての旅でした。現代のアート/文学(とりわけポエジー)における「地中海」というトポスをめぐる研究の第1回の調査でした。「地中海」ということになれば、いわゆるMidi(南仏)の思想、19世紀後半以降、パリが「19世紀の首都」として確固たる位置を築くと同時に、アーティストたちの「周縁」への逃走!もまたはじまります。そのときパリからは、まず「南へ」でありました。印象派の画家たちが「西」のノルマンディーの海岸を目指したのに対して、後期印象派の画家たち、いや、それ以降の画家たちも地中海を目指します。じつは、その「運動」は現代だって続いていて、いまでも文化の中心的なフィギュア−を形成しています。
となれば、やはり現代でもアーティストたちが向かう具体的な「トポス」に行ってみなければならない。で、どこへ行ったか。Biotです。なぜなら、そこにはすてきなガイドがいるから。Keiko Cordyさんです。ケイコさん(完全なフランス人です、父上が日本にも滞在していた有名なジャーナリストで、日本の女優の岸恵子からその名をとったのです)は、表象文化論の大学院の2期生か3期生だっ
たか、わたしの指導のもとで、博士論文を書いた人。最近では、東日本大震災のあとに、福島に入って映画を製作したシネアストでもある。彼女はいまはBiotにいるので、その彼女のアレンジで、昔から多くのアーティストが泊まって、そこにアート作品を残してもいる村の古いホテルに泊まることができました。そして、そこを拠点にして、東はエズから、ニース、サン・ポール・ド・ヴァンス、ヴァンス、アンティーブ、ル・カネ、西のグラースまで、美術館、個人アトリエ、さらにはいくつかの特権的な「トポス」をめぐってきました。
しかし、昔の学生がこういうふうにアレンジしてくれて、その土地のほんとうの扉が開くという経験は嬉しいです。教員をやっていることの最大の歓びではないでしょうか。着いた日の夜は、ケイコさんの父上が、コバヤシが来たのなら、と家に招いてくれてシャンパーニュ1本をあけてくれました。最後の日は、ケイコさんの母上とケイコさんといっしょに、南仏の山の上を散策しました。自分が南仏の土地のなかに、迎え入れられているという感覚。これをアレンジできたことは、幸福でした。ケイコさん自身もあとからメールをくださって、Votre présence a été comme une lumièreと書いてくれました。ちょっと目頭が滲みますねえ。
(後ほど、写真もアップしましょう。その後のパリの滞在についてはまた別便で。)