破急風光帖

 

★ 日日行行 (2)

2015.07.02

★ 3月に定年になって、ありがたいことのひとつは、やはり時間に多少の余裕ができたこと。そうなると、UTCPで動いていたあいだに、たとえばパリで買い込んだかなりな量の書物を、ようやく少しゆっくり眼を通すことができる。ここしばらく夢中になっているのが、Miche Casséという物理学者が書いた『Du vide et de l'éternité』(空虚について、そして永遠について)。Odile Jacob. 2014年。

じつは、この本こそ、5月27日のブログに書いた「レアルとは、想像的に可能であるものの重ねあわせ以外のなにものでもでもない」という最近のわたしにとっての哲学的思考のチャレンジのスルスであるのでした。でも、この命題そのものは、カッセにものではなく、なんと数学者のアラン・コンヌのもので、それをカッセは本の冒頭にも、また最後にも、現代物理学の哲学的な含意を集約するものとして掲げているのです。

 原文は、Le REEL physique n'est rien d'autre que la superposition des possibles IMAGINAIRES.
もちろん、Imaginaireは、虚数のことでもあります。まあ、複素数的可能態の重ねあわせとしてのリアルということです。現実とは、想像力、われわれを超えた想像力の可能態の重合としてある。ここにやはり現代の哲学的な思考に、数学−自然科学から突きつけられた匕首の切っ先がある。いや、むしろ、数学−自然科学において、いま、ようやく、この次元そのものが問い直されかかっているということに感動を覚えます。

 アラン・コンヌは、いわゆる非可換幾何学の大家です。で、あわてて1999年に出版されたコンヌの『非可換幾何学入門』の邦訳(岩波書店)を取り寄せて読もうとするのだけど、「量子空間の巡回コホモロジーとK-理論」なんて言われても、歯が立ちませんね。残念。でも、新しい「知」の想像的可能性を追求したいですね。

 


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