2018年6月24日(日)に、こまば当事者カレッジ2018年度夏期コース「認知症を考える」の第2回が開催されました。第2回では「優しさを伝える技術・ユマニチュード」と題して、本田美和子さん(国立病院機構東京医療センター)とイヴ・ジネストさん(京都大学特任教授 ユマニチュード考案者)をお招きし、ユマニチュードの哲学や実践の仕方について、豊富なエピソードを交えてご講演いただきました。通常のこまばカレッジは、ゲスト講師の「レクチャー」と、それを受けた参加者全員の「ワーク」を中心に構成されていますが(「れくわく」)、今回はユマニチュードの考案者であるジネストさんにお越しいただいたことで、お二人によるレクチャー→参加者による振り返り(1)→Q & Aセッション→参加者による振り返り(2)という流れで進みました。終了後にもQ&Aセッションの続きを行うなど、より講師と参加者の対話を重視した形で行なわれました。

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お二人のレクチャーでは、まず本田さんからユマニチュードの概略についてご紹介がありました。「ケアとは、その人のもっている力を引き出すもの」という言葉から始まり、「引き出す」ためにその方がどのようなことできるか、きちんと評価するところからユマニチュードが始まることが共有されました。実際にお見せいただいた入浴介助の映像では、通常時には寝たままでシャワーを浴びていて、ご本人も泣いて苦しそうであったところ、ユマニチュードを用いた際には、その方が座れることを鑑みて座ったままシャワーを浴びる形に変更し、ご本人も落ち着いて介助を受け入れている様子が見受けられました。また、ユマニチュードの効果については実証研究も行われており、ケアにより、認知症症状が良くなったという結果や介護者の負担が軽減したという結果が得られているそうです。こうした流れを受けて、ユマニチュードを広く用いてもらうために映像教材も作られたそうです。YouTubeの「高齢者ケア研究室チャンネル」https://www.youtube.com/channel/UCHopS0wOt0R9Iun1ZH5fpLgではそれらの動画が公開されています。

続くジネストさんのレクチャーでは、ユマニチュードの哲学と実践についてより詳しく、多くのドキュメンタリー映像も含めてご紹介いただきました。改めて、ユマニチュードとは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を中心に、400以上の具体的な技術からなるケアの技法を指します。ケアにおいて、愛情や優しさは最も大事だけれども、それが伝わるには「技術」がいる – ユマニチュードは、優しさを伝える技術として、全て考案者のジネストさんとマレスコッティさんの経験に基づいて編み出されました。時間の関係上、個々の技術の詳細は伺えませんでしたが、例えば、相手との距離が20cm程度になるくらい近づいてしっかり目を合わせること、聞いているかわからなくとも全て言葉で説明し、了解を求めること、触れる時には背中かふくらはぎなど敏感でない部分から広く触れること、などが挙げられました。実際にレクチャーの最中には、2人一組になって相手の目の中に自分がよく見えるくらい近距離で見つめあうというワークが行われたのですが、報告者自身、初対面の相手の方にとても親近感が湧くのを感じました。ジネストさんはユマニチュードの生物学的な基盤にも注目されていて、講演中には関連する様々な神経科学的知見も共有されたのですが、互いを見つめることで脳内のオキシトシン分泌が促進されるという報告があり、それがこの「見つめる」効果を担っているのではと話されていました。また、触れ方について言及されていたことには、どうしても相手の体を動かそうとする際に「掴んで」しまうことが多いのですが、それはモノに対する扱いであり、掴まれた当人にとっては触れた人が敵であるかのような、暴力的なメッセージを与えてしまうのだそうです。医療や介護の現場で報告される「攻撃的な」人というのはいないのであり、いるのは「防御的な」人だけだという言葉がとても印象的でした。腕を上げてもらうにも、手の平全体を使って下から支えるように触れるなど、ユマニチュードにおいては各技術が「私はあなたの友人ですよ」というメッセージを与えられるように編まれています。そして実際、ジネストさんがケアにあたるとき、「何かをするために」その人のもとに行くことはないのだそうです。なぜなら、人と人が会うのは理由や目的があるからではなく、ただ友人だから。その人と「良い時間」を過ごすために出向いていき、そのついでに時々に応じてお薬を渡したり、食事場所に連れて行ったりするとのことでした。

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一方、ジネストさんの愛情豊かなお話を伺っていると、疲れてしまうことはないのか、その愛情が枯れてしまうことはないのかと思う部分もあったのですが、愛情や優しさを与えることで、自らもそれを受け取っているという側面があるようでした。ユマニチュードが「良いつながりの哲学」であるという言葉にも、その両方向性が現れているのだと思います。

今回は総じて、ケアという究極のコミュニケーションのあり方について一層深く考えられる、貴重な機会となったと思います。お越しくださり、さまざまな立場の当事者としてご意見・ご質問を寄せてくださった参加者の皆さまも有難うございました。次回以降のこまばカレッジもどうぞよろしくお願いいたします。

(文責:高村夏生)