ブログ 2019年11月

2019.11.28 Permalink

2019年10月 6日(日),シンポジウム「マインドフルネスによる実践者の変容〜ヴァルネラビリティから生まれる対話」が開催されました。

今回のイベントでは,マインドフルネスを科学的根拠のある治療法としてではなく,ヴァルネラビリティに基づく自分ごととして,そして文化と歴史に根差すものとして,捉えることを試みました。
ゲストとして藤野正寛さん(京都大学教育学部 助教 / 認知心理学),井本由紀さん(慶應義塾大学理工学部 専任講師 / 文化人類学),小木戸利光さん(Theatre for Peace and Conflict Resolution 代表 / 演劇・パフォーマンス)にお越しいただきました。
会場は100名近くの参加者の方に恵まれ,盛況のうちに開催する運びとなりました。

まずは藤野さんが,本日のテーマであるヴァルネラビリティとマインドフルネスについて,メタファーを用いてわかりやすくお話しくださいました。ヴィパッサナー瞑想や日常の中で一時的な痛みや長期的なもやもやから放たれていった体験が語られました。

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続く井本さんは,マインドフルネスの構造や歴史をふまえ,社会学などの観点から論点を提示してくださいました。マインドフルネスリスニングのワークでは,この場で出会った参加者同士で相手の存在に注意を向け,会場全体に意識を広げていく実践に取り組みました。

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小木戸さんは,芸術を居場所としフィールドワークを展開されてきたご自身の経験について共有してくださいました。全員参加型のパフォーマンスで会場が一つの空間になりました。

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最後にはディスカッション・質疑応答を行いました。これまで学術的に焦点が当てられてきた側面とは異なる体験的なマインドフルネス感覚が,参加者ひとりひとりの中に位置づく手助けとなったようです。

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イベントにご参加くださったみなさま,誠にありがとうございました。
今後もこまば当事者カレッジをどうぞよろしくお願いいたします。(報告:馬場)

2019.11.14 Permalink

2019年9月25日(水)に、第4回「障害と共生」研究会が開催された。研究報告を行なったのは、遠藤希美(東京大学総合文化研究科博士課程)と原田玄機(白梅学園大学非常勤講師)である。
はじめに、遠藤が「ヒトの心身メカニズムを知るための実験的アプローチ」というタイトルで発表を行った。感覚と運動との相互作用を例に、実験的にどうアプローチしどのように定量化するかを説明した。最後にこうしたアプローチの限界やインタビュー等の質的なアプローチとあわせる重要性を述べた。

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続いて原田が、「戦後日本の知的障害者処遇の対象変動――1970~80年代の特殊教育を中心に」というタイトルで報告を行った。ここでは、日本の知的障害児教育の対象変動とその要因の仮説を提示した。公的統計等の検討から、1970~80年代の特殊教育において、軽度知的障害児よりも中重度知的障害児を対象へと対象が変動していったことを跡づけたうえで、その背景には教員という資源の制約があったのではないかという仮説を提示した。
ディスカッションでは、学校に子どもを通わせる保護者の意向、心理検査の変化、学校卒業後のライフコースといった点を視野に入れるとよいのではないかというコメントをいただいた。普段とは異なる視点からコメントをいただき、今後の研究の方向性に関する示唆を得ることができた。

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なお、本報告は、拙稿、原田玄機(2019)「養護学校義務化以後における軽度知的障害児の減少:特殊教育はどのような知的障害児を対象としてきたか」『〈教育と社会〉研究』第29号、pp.59-70をもとにしたものである。

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(報告:遠藤、原田)

2019.11.12 Permalink

2019年8月10日(土)に、2019年度カレッジ夏期コース第4回「社会的養育のいま」が開催されました。児童福祉施設での養育支援などの社会的養育を切り口に「家族」のあり方を考えるレクチャーおよびワークとなりました。講師として高橋亜美さん(アフターケア相談所ゆずりは/アフターケア事業全国ネットワーク)、川辺康子さん(西成チャイルド・ケア・センター/にしなり☆こども食堂)のをお招きし、リサーチ・アシスタントの中里晋三さんによる司会・ファシリテーションで、講師のレクチャーおよびインタビューが行われました。ワークではレクチャーに基づいて参加者のみなさんでグループディスカッションを行いました。

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 まず、中里さんより、社会的養育についての基礎的な知見を概説していただきました。私はレクチャーを受けるまで、社会的養育というと児童相談所や児童養護施設をイメージしていました。しかしそのイメージは覆され、社会的養育とは子どもの育ちを社会で支える営み全体を指す幅広い概念であり、保護・生活・自立支援といった様々な段階で各施設がそれぞれ機能していることを学びました。そうした施設の中で、アフターケア相談所ゆずりはと、にしなり☆こども食堂がどのような機能を持つのかを聴いた後、高橋さんと川辺さんのレクチャーに移りました。

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アフターケア相談所ゆずりはは養護施設を巣立った人たちの自立支援の相談窓口となるところです。こちらの施設の高橋さんは、ご自身が児童養護施設の職員としてこどもたちと関わった経験や、設立の経緯や現状を幅広くお話してくださいました。養護施設出身の人たちは、社会生活が過酷になっても適切な公的支援を受けないことが多々あるそうで、彼らは「誰にも頼ることなく生活する」ことを「自立」として捉えているように感じました。一方、高橋さんは「誰かに相談しつつ試行錯誤する」ことこそが「自立」の道に繋がるという思いで活動しているように感じました。「自立」とは何なのか、私自身も考える機会となりました。

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にしなり☆こども食堂は要養護児童対策地域でこども達を見守る機関です。にしなり☆こども食堂の川辺さんが設立の経緯とこども食堂でのエピソードを話してくださいました。その後、中里さんによる川辺さんへのインタビューが行われました。こども食堂が世間一般的には必要最低限の食事を提供するイメージが強いようですが、実際は食事の提供以外にも様々な活動を行っており地域の人々と交流しつつ学ぶ場として機能していることを学びました。

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グループディスカッションでは、今回のレクチャーに関するテーマを複数提示し、それに基づいて参加者同士でディスカッションを行いました。最後の全体ディスカッションではグループディスカッションでの内容を共有しつつディスカッションを行いました。今回のコースは「家族と子育てを考える」をテーマとしていますが、このテーマを社会全体という広い枠組みで捉える広い良い機会になったのではないでしょうか。 (報告:遠藤)