Title: | UTCP Trans-Asian Humanities Seminar (人文亞洲研討班/間アジア人文学セミナー)⑤Finished |
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Date: | 16:00-17:30, Friday, October 20, 2017 |
Place: | Collaboration Romm 3, Builiding 18, Tokyo University Komaba Campus |
タイトル: UTCP Trans-Asian Humanities Seminar (人文亞洲研討班/間アジア人文学セミナー)
日時: 2017年10月20日(金)16:00-17:30
場所: 東京大学駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム3
発表者: 谷雪妮 Gu Xueni (京都大学大学院)
コメンテーター: 村田雄二郎(東京大学
Language: 日本語
Title:
橘樸の初期思想形成―煩悶青年・民族宗教・王道―
【Abstract】
橘樸(1881-1945)は戦前日本の中国研究の先駆者、思想家、記者。従来の研究は概して、彼の思想の一側面のみを取り上げ、それを研究者本人の関心と基準に引きつけて分析している傾向が強いと思われる。本報告では、橘の言説を同時代の日本と中国の思想的コンテクストに位置づけ、その思想形成を内在的に分析することを目指す。
山本秀夫氏はその橘に関する伝記のなかで、青年時代の橘の「豪傑癖」を強調し、それが中国渡航を促すなど橘において重要な側面を占めたと指摘するが、報告者は橘における「煩悶青年」の側面を重視する。明治末期の「煩悶青年」現象と、当時形成されつつあったロマン主義的な人文学こそ、橘の思想形成を支えた精神的基盤であったと考えられるからである。また、『京津日日新聞』の家庭欄記事、橘の指導を受けていた宿南八重の個人雑誌『楠』に掲載された記事などに依拠し、橘の人生観と歴史観の形成にも光を当てたい。
次に、1910年代後期から20年代前期にかけて、橘が精力的に行った道教研究について考察する。先行研究はそれを「民衆からの視座」として評価した一方、橘が用いた研究方法とその内実を十分には検討してこなかった。報告者は橘が依拠した学知を考察するととともに、中国の民間信仰及び伝承の起源にまで遡及し、農村生活や農民に「支那民族」の「本来の姿」を見出そうとした彼の思考様式に注目する。
以上をふまえた上で、橘の中国古代史・古代思想理解について検討する。橘の中国古代思想研究には、道教研究を通じて得た宗教学・人類学・民俗学に関する理解が色濃く反映されている。また、その研究は1920年代前半の軍閥混戦と近代国家建設の困難といった中国の現実課題を解決する「処方箋」を見いだすためのものでもあった。報告者は、橘が道教研究から、中国古代にデモクラシー(王道)を発見するにいたった過程を考察するとともに、それが彼の中国革命論及び中国社会研究といかに連動しているのかを確認したい。