破急風光帖

 

★  日日行行(352)

2020.05.19

* 「本というものは、現在進行中の仕事あるいは細部まで検討された計画といった形でその輪郭が見えてしまうときよりも、遠い夢想の彼方に青みがかった光のように夢見られているときがもっとも美しい。そのとき本はまだ、テクストという文字の集積としてではなく、夢の物質化とでも言うべき優しい光の空間として現れている。そのページは夢の襞であり、ノンブルは旅の標識である。白紙の表面にはのびやかなエロスの肌触りがある。」

 昨日のブログの続きかな。昨日、発見した1989年にわたしが書いたテクストの一節(『出版ニュース』の「書きたいテーマ・出したい本」というコラムへの原稿でした)。こんなふうに「夢想」のように「青みがかった光」を思っているだけだから、当然ですね、なかなか一冊の本に辿りつかない。実際、40代に発想した表象文化論のための本(『絵画の冒険』、東京大学出版会)が出来上がったのが、東大をやめたあとの66歳ですから・・・新しい「知」の誕生につきあって教えてきた者のある種の「責任」、あれだけは残しておかなければ、と思い詰めていましたね。ほかは(責任もないし)、全部、「夢想』かな・・・?

 いやいや、それでも、今日、未来社の雑誌「未来」で連載させていただいていた「オペラ戦後文化論2」の見本が出来たと連絡がありました。嬉しいです。これについては、本が到着次第、稿をあらためて報告させていただきます。


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