破急風光帖

 

★  日日行行(337)

2020.04.27

* またもや500頁を超える分厚い、しかもたくさん写真や図版が入った本です。『イタリアの中世都市』副題が「アゾロの建築から領域まで」(鹿島出版会、5000円!)、監修が伊藤毅先生です。イタリア・ヴェネトの山岳と平原の境界に位置する中世からの古い都市アゾロを、伊藤さんが東大で率いていた若手研究者たちと徹底的に調査した記録です。「領域」という新しい方法論を提案してもいる。
 

 青学で2年間同僚だったし、そのもっと以前にも東大で同じシンポジウムで発表したこともあり、ありがたい友情から新刊書をおくっていただきました。こういう徹底した調査をベースにする研究というのをしたことがないので、わたしなどはどう読んだらいいか、わからないところもあるのですが。
 でも、そうなると、むらむらとわたしだったらこの都市をどう読むだろうみたいなことを、まだちゃんと読んでもいないうちから考えてしまいますね。それで、ざっと構成をながめただけなのに、そうだ、やはりポルティコと水車小屋を結ぶ『線」を引きたいなあ、みたいな妄想を考える。問題系は「公」と「私」のあいだ、「法」と「法ではないもの」とのせめぎ合いみたいなことはどうか?
  ちょっと前に本を手にしただけなのにそんなことを夢みて、お礼のメールに書いて伊藤先生に送ってしまいました。何人もの人が何年かかけてまとめたお仕事に対して、どこがおもしろいかなあ、みたいな「さもしい」眼で特異点を探そうとしてしまう。身にしみ込んだクセというか、中毒みたいなものですね。
 伊藤先生はお優しいので受けとめてくれましたが、とんでもない「無礼」ですよね?でも、地図や写真や図をみながらぱらぱらとこの街の「感触」に触れようとするのはなかなか楽しい。いつか行ってみたいですね、アゾロへ。
 最近、送られてきた本は、ほかには晶文社の社長さんからいつものように『吉本隆明全集』の第22巻が届きました(こちらは6800円)。85年から89年をカヴァーするもので、あの『ハイ・イメージ論』Ⅰが収められています。わたしもちょうどリオタールのドキュメントを整理していて、この時期、88年かな、リオタールと吉本隆明さんの対談の通訳をやったことを振り返っていたところでしたので、こちらもぱらぱらと眼を通すのが楽しかったです。
 もう一冊は、大山英樹『夏目漱石と帝国大学』(晃洋書房)。これは、青学で、わたしが副査として審査した博士論文でした。それが出版されました。よかったね。青学に着任して、昔、非常勤講師をしていたころの学生だった大山君がまだ在籍というので、「人生無駄にするな、やろうと思った博論さっさと書け!」と叱咤激励したのですが、それから1年足らずで見事に書きあげてくれました。赤門をイメージした赤い表紙の本です。


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