破急風光帖

 

★  日日行行(219)

2019.02.19

* 今回は、去年とちがって学生たちをどこかに連れていくとか、教員としての仕事がまったくないので、「わたしだけのパリ」という感覚が強いですね。通りすがりの人ではなく、パリの人になる感覚が戻ってくるというか。感傷にまかせて、パリ日誌を続けておこうかな。同じくフランス語を学んだ同期の友人の何人もすでに生死をわかつ川を渡ってしまったことを思うと、自分がここにこうしているということが、やはり特別なことのように思えてもくるので。

 マビヨンというカルチエ・ラタンのまんなかにある建物の狭い螺旋階段をのぼっていくと、最上階に小さな部屋があって、白い絨毯が一面敷いてあるのだけど、そこにフランス人の若い男がしずかに座禅をしているのを見たときはびっくりしましたねえ。もう十数年前かな、パリでは、街のどまんなかにこういうスペースがあるんだ、と。ちゃんと袈裟をつけて、線香をたてて一柱、すわってた。そこがサンドラさんの空間だったんですね。彼女は、ブラジルにいたときから、曹洞宗の禅師に弟子入りしていた。彼女からいつも話にきいていたその徳田禅師に昨日ようやくお会いできました。短い時間だったけれど、マイスター・エックハルトの話などもできてよかったです。ユダヤのラビの翌日は、老禅師と来るか、とわがパリもなかなか深い!
 サンドラとはそのあとタイ料理をごいっしょして、オデオンのまんかの秘密の庭であるロハンの中庭(バルテュスもジャコメッティも住んでいたことがありますよ)というところにある彼女の家へちょっと寄る。すると夫君のパスカルが出てきて、彼は、かつてのスイユ社のオーナーだった人ですが、いっしょに二人で珈琲ということになる。そこで「黄色いベスト」の話とか、最近、フランスでも増えてきた(またしても)反ユダヤ主義などの憂うべき政治状況について意見交換。かれからは、君の日本文化論をフランス語に訳して、読ませてくれ、との熱い要望も。かれもわたしの思考に真剣に耳を傾けてくれる人なんですね。水曜夜の再会を約束して別れましたが。

 夜は、ポン・ヌフに近いMonnaie(元造幣局)のすばらしい建物で行われた雑誌Vogueの展覧会のオープニングへ。メキシコの地震の被災者への義捐金のために33人のアーティストに女性を描いてもらった作品展。わが友人の黒田アキも出品というので、行きました。かれは、マグリット・デュラスを描いてましたね。それもすてきなのですが、なんといっても建物に感動しました。18世紀につくられた大理石の大きなホール。いや、逆立ちしても日本では見ることのできない豪華な空間。そこで美人のDJが踊りくるいながら音楽を立ち上げていて、みなさんはおいしいシャンパーニュを。外は皓々と大きな月がセーヌ上空にかかり。パリならではの陶酔的ソワレの空間でしたね。やっぱりパリ、Bravo!といいたいかな。
 その後はアキさんご夫妻とまたしてもLe Selectで食事でした。今回は、Le Selectがわたしのカフェになったみたい。
 
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