破急風光帖

 

★ 日日行行 (58)

2016.10.01

*10月。境界の月。この境界をどう突き抜けるか。しかし、今朝の空模様も一面の曇り空。重くはないが、光からは遠い。

 フランスから帰国して、1日だけ秋の透明な光をあびていた休日があった。が、それ以外は、曇天の下、心忙しく駆け回っているだけ。とりわけ、いまは、わたしが大嫌いな、にもかかわらず引き受けてしまった仕事が重くのしかかって心は晴れない。そのなかで、秋学期の授業は順調にはじまり、いくつかの新しい試みもスタート。激しい秋になることが予想されるのだが、なんとか足を滑らせずに乗り切りたいもの。
 ある雑誌から原稿を頼まれて、ひさしぶりにベンヤミンを読んだりしていた。2011年の秋にパリで見たベンヤミンの展覧会のカタログが出てきて、その巻末に、死後、かれの遺贈品から発見された、シエナの美術館でかれが買ったと思われる8枚の、なんとシビラ!の絵葉書が展示されていたのをあらためて発見した。デルフォイなどのギリシア系のシビラたちの線描。やっぱりねえ、みたいな感慨。かれが選んで立っていた「境界」の「夜」を、あらためて思ったりもした。
 なにか遅配というような形で、ある契機に、過去から届く配達物みたいなものがある。
と、書いたら、そういえば、この9月、今度、来日するイレーヌ・ボワゾベールさんのアトリエを訪れた帰りの道が、たまたまLe Moulin vertで、その端に、ジャコメッティが26年から住んでいたアトリエの建物があった。なんどもパリにいて、一度も、そこを訪れようとは思ったことがなかったのに、いまごろになって、遅配された。写真でなんども見ていたその建物を、街路に立ってぼんやり眺めながら、なつかしいような、遠いような、なにかの終りの徴であるような不思議な感覚を味わっていたのを思い出した。扉があいたら、アネットが出てくるのではないか、みたいな、ね。
 


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