破急風光帖

 

☆ 秋のbillet (2)

2016.10.18

秋の光、いよいよ明るく、刺しつらぬくように落ちてきて。この光の尖端で、「魂の表皮に」と言おうか、文字が刻まれることを、こんなにも願望していないわけではない。

 だが、すでにいくつもの文字が刻まれているのに、きみは、それを読む術をまったくもっていないのではないか。パランプセプトとして、文字の上にまた文字、いくら重ねても、結局、すべての文字は残留し、その残留が、きみという一個のテクストを織り上げていたりする。読めない文字で書かれたテクストを手渡されて、さあ、これがきみだよ、と言われても、突然、舞台上ですっかり台詞を忘れてしまった役者のように、きみは突っ立っているだけ。そういうときは、あわてずに、静かにゆっくりと、踵を返して舞台袖に消えてしまえばいい。あとに、きみの不在が一個、残留し、そこにライトが落ちてきて、それが、———観客などじつははじめからひとりもいなかったのだけれど————ひとつの文字、ひとつの信号として、束の間、瞬く。
 
 昨日のあの光はもうなくて、今日は雨。雨音に耳を傾けながら、昨日の光を惜しむように思い出そうとしていたら、こんな言葉が指先から流れ落ちた。もちろん、わたしにだって読めはしないのだが、billetとして記しておこうか。(10月17日)


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