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時の彩り(つれづれ、草) 023

2008.02.16 小林康夫

☆ 31791(謝謝!)

本ブログ010で10月の本サイトへの訪問者数を12572とお知らせした。それから3月経って1月の数字がこれ。

1日平均1025名ということになり、昨年秋よりは確実に倍以上。正直いぶかしい思いもあるが、多くの人がわれわれの活動に関心を寄せてくださっていることはまちがいなく、わたしとしてはありがたく思っている。

個人サイトはほかにもたくさんあるだろうが、そういうものとは別な形で、人文科学のアクチュアルな共同性が感じられる「場」を世界に開かれた形で提示するというある種の「実験」として試行錯誤を繰り返しながら、これからも少しずつ「進化」させていきたいと考えている。人文科学の「鼓動」のようなものを日々発信できたらいいのだが……


☆ カオス的遍歴、まさしく

週末になってやっとほんのわずかに気持ちの余裕。久しぶりに、昨年京都ではじめて自分でつくった赤楽の茶碗を取り出して、(炉はないので)やかんのお湯で抹茶を一服。一週間ばかりの来し方をぼんやり振り返ってみれば、あいかわらずの常軌を逸したてんてこ舞いではあったが、そこにひと筋、充実した楽しさがあったことに気がつく。

先週末は旧約聖書『出エジプト記』と取り組みながら「思考のパルティータ」のためのいつものように苦しい原稿を書いていたが、今週の前半は修士論文の審査。こちらもセザンヌ論を読めば、問題となっている作品を自分ならどう解釈するかを考えながら読み、イヴ・クライン論となれば、Sidra Stichのモノグラフを読み直すなどということをやるのだから時間のかかること。そうした審査の会でまるまる二日がつぶれるのだが、しかしこちらはそれだけではなく、そのあいまに!複雑系物理学の大家・金子邦彦さんの『生命とは何か』400頁を読了しなければならない。

というのも、水曜の朝には駒場の金子研を訪ねて、わたしが連載している『UP』(東京大学出版会)のエッセイのためのインタビュー。そしてその翌日には、フランスから来たドミニク・レステルさんの講演会がこれも朝から。その報告はすでに郷原さんが書いてくれているが、そこではわたしは久しぶりに仏語からの通訳などということをやって、まだ通訳に必要な反射神経は老いていないと確かめられたのは収穫だったが、それはともかく、前日の金子さんとのカオス理論をめぐるトピックとエステルさんの動物行動学批判とがわたしの頭のなかでは「つながった」。それをひと言で言えば「カオス的理性」ということになるが、そのアトラクターに向かうように『UP』原稿は書き上げて、――昨日のことだが――その足で東京都現代美術館へ。

その川俣正展のなかでのUTCPセミナー。川俣さんとの対話も楽しかったが、ベンヤミンをテーマとしたセミナーも充実していて、竹峰さんのきちんと整理されたみごとな『パサージュ論』分析のうえに、森田さんの「迷うこと」をめぐるなかなか独創的な読解。ちょっと感動した。だって、「迷うこと」はまさにカオス。それぞれまったく別の領域の三つのトピックが、まるで結晶化するように、ひとつの線で結ばれて、少し高揚したわたしは、川俣さんのおゆるしをえて、東京都現代美術館の壁に大きく、金子さんの言う「カオス的遍歴」のぐるぐる模様を一筆描きで描かせてもらい、「痕跡」を残したのである(わ~い)。


そう、ここから「時代」と「歴史」――それがわたしのこの1年のテーマだ――とを「カオス的遍歴」として見るわたしなりの眼差しがやっと芽生えた、という感じ。ささやかだが、出来事である。楽しいなあ!ほんとうに。


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