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時の彩り(つれづれ、草) 011

2007.11.09 小林康夫

☆ 雑誌(『未来』と『UP』)

雑誌『未来』に「思考のパルティータ」というタイトルのもと、「論じる」のではなく、ただ「考える」断章を連載させてもらっていて、そのテクストは実は、編集部の了解を得て公刊以前にこのサイトの「哲学の樹」にアップさせてもらってもいるのだが、手元に届いた11月号には、わたしのテクストだけではなく、UTCPの共同研究員をお願いしている王前さんの論考「ベンヤミン、丸山、バーリン、そして中国思想界近況一瞥」も掲載されている。

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今年6月に上海の華東師範大で行われたベンヤミン・シンポジウムに際して、わたしのベンヤミン論の一部を翻訳してくださり、しかも当日、ペーパーなしのその場でのわたしの発表(張旭東さんの問題提起に対する応答)を鮮やかに通訳してくださったのが王前さん。なんと心強かったことか。東京ではあまり話をする機会がなかったのに、上海で少しじっくり話ができて、かれの学問の深さにちょっとうたれた。それもあって、今回のUTCP発足にあたって、わたしから指名して共同研究員になっていただいた。同時に、その学問の一端でもまず公表していただこうと、『未来』編集部に紹介する形でエッセイの原稿をお願いしたら、まさに上海シンポを枕にして、ベンヤミン、丸山、さらにはご自分の研究テーマであるバーリンまでをつなぐ中国思想界の展望を寄せてくれた。それを読んでいると、中国的な支配の力圏において、「個人の自由」がどのようにありうるのか、というたぶん王前さん自身の根底的な問題意識までがはからずも立ち現れてきているようにも思われて興味深かった。この次にはPDの金杭さんにもエッセイをお願いしているので、『未来』誌上でUTCP関連企画が続いていくのだと思う。

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 また、東京大学出版会のPR誌『UP』でも、今年の1月から、わたしは、こちらは理系の科学の現場を訪ねて、自分なりの対話を試みる連載「UTオデュセイア」をもっているが、今月号のは、駒場の浅島誠先生(生命科学)との対話から出発して、生命の発生の最初期における「回転=ディフェランス」にフォーカスしたもの。ところが、そのすぐ隣には、中島隆博さんのテクストも並んでいて、そちらは、先日出版されたご自分の本『残響の中国哲学――言語と政治』にちなんだ話なのだが、わたしといっしょに今夏、瀬戸内海の直島で高校生たちと「哲学」を語ったその経験の「残響」が、心の響きをそのまま映したような率直なスタイルで書かれている。これも中島さんにとっての哲学の原点がどんなものだったのかが透かし見えるような好エッセイ。顔を合わせて喋っているのもいいが、雑誌という文字の場でテクストが「共生」している景もなかなか楽しい。


☆ 案内(「見えないものを見る」・「野生の知」)

11月のわたしのステップとしては、まずは17日(土)の午後、五反田の東京デザインセンターで永山國昭さんとともに「見えないものを見る」というテーマでシンポジウム。「世界を見る」、「生命を見る」、「脳を見る」という3つのサブテーマで科学の眼差しと芸術のヴィジョンのあいだを論じる予定。これは、永山さんとわたしが昨年まで10年にわたってオーガナイズしていたロレアル・カラーワークショップの延長の企画。多くの常連ファンのお客さまもいてくれたことだし、1年に1度くらいは、科学と芸術のあいだを問う企画を続けようというデザインセンターの船曳鴻紅社長のご好意あふれるお申し出の賜。永山さんとの久しぶりのバトルも楽しみ。

◆TDCワークショップ「科学と芸術」第1回
「見えないものを見る」―科学の眼差し・芸術のヴィジョン:
http://www.design-center.co.jp/events/index.html#event_10

もうひとつ、翌18日(日)には、表象文化論学会の研究集会で、レヴィ=ストロースをめぐるシンポジウム「生きている神話、あるいはレヴィ=ストロース:「野生の知」を求めて」があり、その司会をやることになっている。当日は、最近、『神話学』第3巻の翻訳を上梓した旧友の渡辺公三さんらが発表をする予定。わたしは専門に勉強したことがあるわけではないが、構造という問題をあらためて考えてみるのは刺激的だと思う。ご案内しておく。

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◆シンポジウム「生きている神話、あるいはレヴィ=ストロース:「野生の知」を求めて」
2007年11月18日(日)14:00-17:00
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1 [地図
発表者:渡辺公三(立命館大学)・木村秀雄(東京大学)・佐藤吉幸(筑波大学)
司会&コメンテーター:小林康夫(東京大学)
http://www.repre.org/about/information/index.htm


さらに、ご案内のとおり、これはUTCP主催だが、翌19日には東洋文化研究所の丘山さんとの「佛教セミナー」も開始される。科学・構造・佛教と続く3日連続の舞台……いや、翌20日にはわたしのゼミ「時代と無意識」プログラムの枠で、フーコーについてのセッションもあるぞ。いったいわたしはなにをやっているんだろう、と思わないわけでもないが、しかしまあ、このカオスがわたしの「顔」。

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