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【報告】戦後日本と立憲主義・民主主義―その緊張関係を巡って

2016.07.08 川村覚文

去る2016年6月2日(木)、東京大学駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム1において、シンポジウム「戦後日本と立憲主義・民主主義―その緊張関係を巡って」が開催された。

本シンポジウムは、去年・一昨年と開いてきた「立憲デモクラシーと東アジアの思想文化」の第三回目に当たるものであり、登壇者に日本政治思想史がご専門の片山杜秀氏(慶応義塾大学教授)、憲法学者の樋口陽一氏(東京大学名誉教授)、宗教学者の島薗進氏(上智大学教授)、そして憲法学者の松平徳仁氏(神奈川大学准教授)を迎え、議論を行った。

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一番最初の登壇者である片山氏は、戦後政治史を振り返りながら、今日における日本を取り巻く状況がどのように構成されてきたのか、批判的に分析された。冷戦の修了と旧共産圏の崩壊に少し遅れる形で、資本主義諸国の行き詰まりが福祉国家政策の行き詰まりとして明らかになってきた。更には、グローバル化の進展により、国家の立場が相対的に弱くなると同時に、世界のあり方の複雑度が増し、世界をどのように理解すればよいのかということが簡単にはわからなくなってきてしまっている。結果として、一般民衆による政治や社会への公民的判断が難しくなり、また社会科学の専門家も現実の複雑さを捉えきれなくなってきている。このような困難さが増す中、物事を長期的に捉える思想的な視座や普遍的な価値が欠落したまま、短期的な視野で当面の危機を回避する「現実主義」的な戦略が取られている。その結果として、憲法の改定や集団的自衛権の問題などが取り沙汰されるようになってきているのではないか。しかも、このような状況に戦前から連綿と続く日本の反近代主義的なエートスを持つ人々が流れ込み、現状をますます悪い方向に変えていってしまっているのではないだろうか、というのが片山氏のおおよその趣旨であった。

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二人目の登壇者は、島薗氏であった。島薗氏は、自らの学生時代を振り返りつつ、自身が宗教学者になったいきさつと、今日の立憲主義をめぐる状況とを対照させながら話をされた。島薗氏によれば、自身が宗教学を志されたのは、エリートではない民衆の思想について研究しようという動機によるものであり、それはエリート知識人が議論にしているような抽象的な議論と一般民衆との間には大きな乖離があると感じたからであるとのことであった。そして、戦後における民主主義や立憲主義を取り巻く言説状況も、エリート知識人による近代主義を前提にした議論ばかりが行なわれ、一般民衆の世界とは関わりのない中でなされているように感じられるものではないか。このような状況こそが、今日における反動的な日本国憲法批判や国体復活論の背後にあるものではないだろうか。そうである以上、再考しなければならないのは、民衆の思想に接続する形で、民主主義や立憲主義の基礎となるような原理や概念を基礎づける必要性についてであろう。以上が、島薗氏の大まかな論旨であった。

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そして、三人目の登壇者は、樋口氏であった。この会の冒頭、松平氏が樋口氏が民主主義主義を過小評価している一方、立憲主義を過大評価していると指摘されたが、それに対し樋口氏はその通りであると言われた。そして、その理由として、日本には民主主義が過剰であるからと答えられた後、それに対して今日立憲主義は壊されつつあると述べられた。その背後には時代的な危機が存在するが、樋口氏は危機の時代における立憲主義の問題について、そのアポリアに照らしあわせて、考察された。フランスでもドイツでも、立憲主義はそれを生み出したものとの断絶をともなうものであり、その意味でアポリアを孕むものである。それは、自然的な基盤とみなされているものへの、人為的な断絶なのである。しかし、そのため常に危機の時代における立憲主義は、その様な断絶や人為性にかけるということがなされてきた。それに対して今日の日本はどうであろうか。目立つのは、民族的な自然的なものへと回帰しようという、立憲主義とは正反対の動きなのではないだろうか。このような状況を問題にせねばならない、というのが、樋口氏の論旨であった。

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以上のような三人の登壇の後、松平氏と川村がコメントをし、それへの応答があった後、全体的な討議へと移っていった。平日にもかかわらず、多くの参加者に恵まれ、シンポジウムは盛況のうちに終わった。

文責:川村覚文(UTCP)

本シンポジウムのより詳しい模様は、集英社新書の特設ホームページにてご覧になれます。

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