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【報告】<現代作家アーカイブ>文学インタビュー第三回:瀬戸内寂聴氏

2015.09.18 中島隆博, 武田将明, 川村覚文, 佐藤空

2015年8月29日、京都は北白川にある京都造形芸大において、文学対話の第3回目が開催された。いつもは本郷の東大図書館が会場となっている本イベントが、今回は出張した形となった。そして、ゲストに瀬戸内寂聴氏をお呼びし、対話を行ったのは平野啓一郎氏であった。この組み合わせに、会場は対話が開始される前から、ある種の熱気に包まれていたように感じた。

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瀬戸内氏はつい最近大病から回復されたばかりにも関わらず、その立ち振る舞いはかくしゃくとしたものであり、話し振りも大変饒舌であった。すでに齢90を超えられているが、その小さい体から放たれるあふれんばかりのエネルギーを、多くの聴衆は強く感じたのではないだろうか。そして、そのようなエネルギーこそ、これから話される氏の作品と人生を貫くテーマそのものであったのだ。すなわち、「愛と情熱」である。

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平野氏のリードの元、瀬戸内氏の生い立ちから対話は始まった。徳島県に生まれた瀬戸内氏は、地元の女学校を卒業した後、東京女子大学に進学する。そして、学生結婚をした後、夫のいた北京へと移り住み、そこで終戦を迎える。帰国後、夫の教え子と不倫をし、夫と娘を残し家を出、京都へと移り住み出版社などで働き始める。このあたりのエピソードは、瀬戸内ファンには大変有名なものであり、いかに氏が愛と情熱に生きてきたのか、ということの一エピソードとしてよく知られているものである。

そして、少女小説の執筆時代や「女子大生・曲愛玲」の新潮同人雑誌賞受賞、『花芯』への文壇からの批判などにより干された経験、そして『田村俊子』の発表により復帰を果たしたことなどに触れられた後、対話は『夏の終わり』へと話が進んだ。『夏の終わり』において描かれている複雑な男女の関係のパトスは、瀬戸内氏の愛と情熱というテーマそのものであり、平野氏によれば「性欲以上の愛」の問題が問われているという。ここでは、寂聴氏による「あふれるもの」の朗読も行われた。

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次に、対話は『美は乱調にあり』と『諧調は偽りなり』へと進んだ。愛と情熱に生きた人々として、伊藤野枝を中心に辻潤・大杉栄との関係を描いた本作は、平野氏の言葉を借りれば、瀬戸内氏のテーマがある種の政治思想・社会思想へと高められたものであった。瀬戸内氏は、革命家が死んでも良いと思って行動する情熱は本当にすばらしい、と述べられていた。

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そして、氏が自身の代表作として挙げた三つ目の作品である『瀬戸内寂聴 現代語訳源氏物語』へと対話が進んだ。瀬戸内氏が本作を手がけようとされた大きな動機は、どうして1000年も前にあんなにも面白い文学を書くことが出来たのか、という思いであったという。瀬戸内氏が天才と評する紫式部が描く「愛と情熱」は、今日においても全く古びてなく、常に新しいものであり、そのことを少しでも多くの人に知ってもらいたい、とのことであった。

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対話も最後に至り、なにか締めくくりのコメントはありませんか、との質問に対して、瀬戸内氏は今日の反動的な政治的状況に触れられ、次のように述べられた。「(反安保法制の)デモに行ってください!」と。そこには、己の生き様として命をかけて文学を生きあるいは生かしている瀬戸内氏の真骨頂を見るような思いがした。

文責:川村覚文(UTCP)

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