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【報告】2015年度東京大学-ハワイ大学比較哲学夏季インスティテュート(10)

2015.09.29 梶谷真司, 中島隆博, 川村覚文

引き続き、2015年8月に行われたハワイ大学と東京大学の比較哲学インスティテュートについての報告です。いよいよこのサマーインスティテュートもクライマックスとなりました。今回は最終日の8月20日と21日に龍谷大学大宮キャンパスで行われた参加学生の発表の模様について、UTCPの川村覚文より報告いたします。

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8月19日に高野山を下山し、再び京都に戻ってきたハワイ大学と東京大学の一行は、六条にある西本願寺を訪れ、英語ガイドの方の案内のもと、飛雲閣や唐門等といった国宝に指定されている文化財を見学した。

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まず、阿弥陀堂・御影堂を参拝した後、狩野派の障壁画などが描かれている対面所や黒書院・白書院、あるいは日本最古と言われている能舞台などを見学した。その後、唐門へ移動し、そこに描かれているキリンがキリンビールのラベルのモデルになっていることなどについての説明があった。そして、最後に飛雲閣に移動し、聚楽第の一部であったとも言われているその威容を見学した。

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その後、20日と21日の2日に渡り龍谷大学大宮キャンパスの一角をお借りして、このサマーインスティテュートの締めくくりとして、参加者による研究発表会が行われた。この発表は、今回のサマーインスティテュートへの参加を通して、それぞれが自身の関心とも絡めつつ、何を学び感じたのか、についてのものであった。以下、各学生の発表内容について、簡潔に紹介する。

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まず、20日はSydney Morrow氏による発表、“Language and Social Imagination: A Confucin approach to Homelesness in Hawaii”から始まった。Sydney氏は、儒教が今日の「ホームがない」といった社会的に不安定な人々を統合するための原理として役に立つのではないかと主張された。続いて、Ana Funes氏が“Voicing the Letter of One's Own Sound. An interpretation on enlightenment, existence and this very body in Kukai's philosophy”と題した発表を行った。Funes氏は空海の言語哲学を参照しつつ、言語としての真言が日常的に使用されている言語といかに違うかが論じられた。その次には、Elyse Byrnes氏が “Renga 連歌as Co-Creative Poetry: Exploring the Translatability of Aesthetic Experience through Poetic Dialogue”と題し、連歌を英語へと翻訳することで生じる創造性について論じた。そして、最後には井出健太郎氏が“A-Historical Historiography: Reading Meta-Linguistic Studies in Buddhism and Confucianism in Early Modern Japan from East Asian Perspective”と題した発表をし、荻生徂徠と契沖の言語論を取り上げ、彼らが言語の本質と機能との関連において、いかなる政治と歴史性を表現しようとしたかが検討した。

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そして2日目の21日、まず午前中は安部高太朗氏による、“Why Can’t We Pray to the Gods through the “Ordinary Language”?”と題された発表から始まった。安部氏による発表は、「なぜ日常語で神に祈ることはできないのか」という問いを中心に据えたうえで、この問いに対して、日本の神道(神社)での祈りに着目して応えてみるという試みであった。その次に、Matthew Fujimoto氏による“A Place Language Cannot Go!?”が発表された。Fujimoto氏は、「言語には限界がある」といった想定に挑戦すべく、言語は無から創りだされるのではなく、その範囲を狭めることによって形成されることに着目しつつ、言語の可能性について論じた。続いて、八坂哲弘氏による“On Japanese Language and Nishida’s Concept of ‘Place’”と題された発表では、日本語の文法が西田哲学の「場所」、「超越的述語面」与えたのではないか、という先行研究に言及しつつ、文法が思考にいかなる影響を与えるのか、文法の観点から見た翻訳可能性、について検討がなされた。そして、午前中の締めくくりとして、Mikael Lotman氏による“The reflexive and substantial ‘self’ in An Inquiry into the god(上原博士に答ふ)”と題した発表がなされ、そこでは西田幾多郎による一人称の使い方に焦点が当てられつつ、8月13日に行われた、上原麻有子先生による西田が使用している一人称の翻訳可能性にかんする講義、への応答が行われた。

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お昼休みを挟んで、午後はPatrick Turk氏による“Reading Ren (仁): Authoritative Conduct in Context”と題された発表から始まった。Patrick氏は言語と現実の関係について、儒学の「仁」という概念を元に考察した議論を発表した。続いて、Winslow Taylor氏による“Shoji-jisso-gi and Linguistic sensibility”と題された発表では、空海の『声字実相義』を参照しつつ、「声」を重視する空海の言語哲学の意義について検討がなされた。その次のJonathan McKinney氏による発表“An Elaboration on Embodied Creativity”では、空海が曼荼羅的仏教的宇宙観との関係において個人の身体を論じていることが注目されつつ、そこに個人主義的な身体観から多様な身体へと解き放たれる可能性が見いだされるのではないか、ということが検討された。そして、次に発表された上田有輝氏の“The Fusion of Altruism and Egoism in Buddhism”では、自らの苦を滅することを目指す仏教という思想における他者性の契機の欠如と、梵天勧請に見いだされるような利他主義的な側面といった仏教の一見矛盾した要素に注目し、悟りを目指す仏教の出発点から利他行へのジャンプはどのようにして起こりうるのかが論じられた。最後に、大畑毅志による発表“The Language in Japanese People”では、陰陽道及び神道の言語観の特異な点から出発し、最終的には言霊思想と更には真言との連関を探ることで、日本人の言語観が検討された。

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以上が、参加学生による最終日の発表の内容である。このようなバラエティに飛んだ発表がなされ、大変活発な議論がなされたことを最後に申し添えておく。
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以上、全10回に分けて2015年度東京大学―ハワイ大学合同インスティテュートの模様を報告してきました。最後に、教員・スタッフを代表して、今回のサマーインスティテュート開催に際しお世話になった様々な方々への感謝を申し上げたいと思います。

まずは何よりも、上廣倫理財団の皆様に感謝申し上げます。一昨年と同様の、上廣倫理財団からの寛大なご支援なしでは、今年度のサマーインスティテュートも開催不可能でした。常日頃からUTCPの活動にご理解いただき、大きな支援をいただいていることに対し、ここであらためて深くお礼申しあげます。

また、京都大学の上原麻有子先生と小倉紀蔵先生には、京都大学で行なわれた講義において大変お世話になりました。ここに深くお礼申し上げます。

高野山での研修時においては、高野山蓮華定院の添田隆昭ご住職ならびに若奥様、そしてスタッフの方々に大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。また、ガイドの児玉佳緒里さんに懇切丁寧な案内をしていただいたことに対して、お礼申し上げます。さらには、高野山大学の武内孝善先生にも、ロジスティックスの手配の段階でお世話になったことをここで記させていただきます。誠にありがとうございました。

そして、最終日の京都での本願寺での見学においては、菊川一道氏ならびに杉本昌子氏にお世話になりました。また、参加学生の発表のために、龍谷大学大宮キャンパスでの教室を手配できたのは、同大学の中平了悟氏のご協力によってでした。ありがとうございました。

さらには、東京大学の本部学務課の山田健さん、教養学部経理課の皆様をはじめ大学の事務の方々に大変お世話になりました。UTCPの伊野恭子さんも含め、大変煩雑な事務作業にもかかわらず、献身的にご協力いただいたことに関して、心からお礼申し上げます。

文責:川村覚文(UTCP)

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