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【報告】第7回 UTCP「沖縄」研究会

2014.09.12 内藤久義

2014年9月5日、東京大学駒場キャンパス101号館研修室において、第7回UTCP「沖縄」研究会が開催された。

今回の研究発表は井上理恵さんによる、「ブラジルにおける琉球舞踊―女性琉球舞踊教師の人生史からみる「オキナワ」の身体化とその実践―」である。井上さんは大学院修士のときにブラジルのサンパウロ大学に留学し、ここで初めて琉球舞踊に出会った。今回は、留学中の調査及び現地での琉球舞踊の体験をもとに執筆した修士論文からの発表である。

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井上さんの研究は、「ブラジルの琉球舞踊の教師の人生史を事例として、ブラジルにおける琉球舞踊の変容を彼女達のエスニック・アイデンティティーの構築過程と現在のあり方に注目して説明し、その新しいアイデンティティーが現在、どのように国家を超えて直接つながりを持ち、彼女達がそれぞれ個別に個体間、集団間においてどのような交流関係を有し、それが移民国においての伝統の継承、新しく創出される文化の発展に繋がっているのかについて、トランスエスニシティー(Trance-ethnicity)からアプローチする」という主旨である。
ブラジルの琉球舞踊教師たち(会主・師範・教師が存在するが以下教師と総称)の活動から「オキナワ」を探り、ブラジルで再構築され、継承・発展している沖縄県の芸能文化の現在を探ろうと試みている。そして、「彼女達(琉球舞踊教師)の「オキナワ」を通してみることで、私の「オキナワ」を見ることができるのではないか」と井上さんは述べる。

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琉球芸能(特に舞踊)について、井上さんはブラジルでの継承形態の構造を「インフォーマルな継承」と「フォーマルな継承」に二分して考察している。この区別と変遷によって移民当初の舞踊芸能の状況と、現在を継承構造から敷衍していくことができるとする。沖縄県からのブラジル移民は1908年の笠戸丸よりはじまった。当初より芸能活動は行われていたが、インフォーマルな芸能の継承形態に大きな変化が生じたのは戦後になって、琉球舞踊の教師資格を持つ上原辰江氏等が移民したことが大きいといえる。
上原氏は1976年、サンパウロで琉球舞踊の研究所を開設し、1981年に第1回目の発表会を開催している。現在ブラジルでの琉球舞踊の教師たちの多くが、上原氏に薫陶を受けており、さらに孫弟子たちが教師としてブラジルの琉球芸能を支えている。
一方、フォーマルな継承の事由としてコンクールの開催を指摘した。沖縄県では「琉球古典芸能コンクール」と「琉球タイムス芸術選賞」という二つのコンクールが新人芸能者の登竜門となっている。ブラジルでもこのコンクールの出場ルールを踏襲し、ブラジル沖縄県人会の主催で琉球舞踊コンクールが開催されており、ここで新人賞―優秀賞―最高賞と取得していくことが継承者としての一歩であり不可欠な条件である。このコンクールの確立が、以後の琉球舞踊の継承のあり方の転換となっていると強調する。コンクールの出現が、フォーマルな継承構造の強化となり、また沖縄県の流派、会派に組み込まれていくことで、家元制度の中に位置付けられることになっていく。

また、井上さんはブラジル琉球舞踊教師たち8名のライフヒストリーの調査から、彼女たちに共通するのは 1、ほとんどが 戦後移民 2、本格的な稽古は移民後に始めた人が多い 3、生業は自営で夫の仕事を手伝いつつ舞踊を習得・教授をしている(比較的経済的余裕と時間的余裕がある) 4、婦人会に所属(していた) 5、師範免許取得や沖縄県から家元・師範を呼んで公演会を開催 6、自作の創作舞踊を複数持っていることなどをあげた。
今回の発表ではブラジルでの広範な調査の一端を発表していただいた。井上さんは、今後、神奈川県鶴見区の沖縄コミュニティにおける琉球舞踊の調査を通して、ブラジルとの比較や芸能等のつながりも研究していきたいと結んだ。


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輪読は今回から、柳田国男著『海南小記』をテキストとしてスタートした。『海南小記』は柳田が大正9年に九州・沖縄諸島を旅した紀行である。沖縄への旅は柳田を日本民俗学へと踏み出させる重要な位置を占めている。

第1回目は西原彰一さんが、『海南小記』の概要を発表した。柳田の九州・沖縄旅行の行程を年表と地図から丹念に読み取り、子安宣邦『日本近代思想批判』、柄谷行人『遊動論』村井紀『南島イデオロギーの発生』、小熊英二『単一民族神話の起源 〈日本人〉の自画像の系譜』等の先行研究から、『海南小記』に描かれる柳田の沖縄観とそこから発現する諸問題について述べた。
今後、輪読は『海南小記』に記される地域ごとに各自がテーマを見出し発表していくことを確認した。

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当研究会では神奈川県鶴見区の沖縄コミュニティの悉皆調査を予定している。調査地域の方々とのコミュニケーションの一環として、7月27日、鶴見区入船小学校校庭で開催された「鶴見沖縄角力大会」(主催:おきつる協会、横浜鶴見沖縄県人会)に、小熊誠先生(神奈川大学)、西原彰一さん、内藤が参観させていただいた。
大会は32名が抽選で選ばれ、小学生の部、青年の部にわかれて行われた。柔道着を着用し四つに組み合った状態から立ち合い、相手の両肩が地面についたら負けという独特のルールである。当日は沖縄角力の本場である久米島から選手たちが参加し、モンゴルからの留学生も多数出場して白熱の戦いが続いた。内藤も大会に参戦予定であったが、受付時間に遅れ来年を期すことになった。

次回の研究会は11月7日(金)18時30分から、東京大学駒場キャンバス101号館研修室で行われる。研究発表は本学の草野泰宏さんの予定。

報告:内藤久義

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