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【報告】UTCP/PhDC 3rd International Conference "Phenomenology of Pain"

2014.05.08 石原孝二

2014年1月4日に、「共生のための障害の哲学」プロジェクトの第三回国際会議となるPhenomenology of Painを開催した。本会議は、「痛み」に関して様々な視点から研究を行っている4人の研究者、Javier Moscoso氏(スペイン国家研究評議会)、Simon van Rysewyk氏(台北医科大学)、河野哲也氏(立教大学)、熊谷晋一郎氏(東京大学)を招へいし、学際的な討論を行うことを目的としたものだった。

スペイン国家研究評議会(CSIC)哲学研究所の研究教授であるJavier Moscoso氏は、痛みの文化史に関する著作(Pain:A Cultural History, Palgrave Macmillan 2012、スペイン語原書は2011年)があり、本書はスペインの学界で注目を集めたものである。Moscoso氏の専門は身体の文化史であり、本書は文化史の視点から痛みを分析したものとなっている。Moscoso氏の講演 “The History of Pain and the Anthropology of Experience”は本書をベースにしたものであり、豊富な歴史的資料を提示しながら、文化史的・人類学的な観点からの痛みへのアプローチを示すものであった。

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Simon van Rysewyk氏は、痛みの哲学を専門的に研究している若手の研究者であり、現在台北医科大学においてポスドク研究員として研究を進めている。van Rysewyk氏の講演  “The Observer is the Observed: Towards Integrating Personal Pain, Neuroscience and Mind-Brain Identity Theory”は、一人称的な「現象学的」方法と、ニューロイメージングに代表される三人称的な神経科学的アプローチとの統合を提案するものであり、「痛み」に関する神経科学的な研究の実例などを紹介しながら、痛み研究に一人称的な視点を取り入れる意義やその方法などについて自説を展開した。

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日本側の講演者河野哲也氏と熊谷晋一郎氏には、折々UTCPの活動に協力を仰いできたが、ともに「痛み」に関して独自の視点から研究を進めている研究者でもある。

河野哲也氏(立教大学教授)は現象学をバックグラウンドに、心や環境など様々なテーマで研究を進めているが、「痛み」の現象学的な研究にもいち早く着手している。講演 “Pain: A Phenomenological Approach”で、痛みに対する現象学的なアプローチがどのようなものであり得るのかが説得的に示された。

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熊谷晋一郎氏(東京大学特任講師)は「当事者研究」と発達科学や神経科学などとの連携を精力的に進めている。講演 “Pain as a loss of collective predictions: implications from Tohjisha-Kenkyu of Addicts”は自身の経験や痛みに関する最近の研究動向などを紹介するとともに、依存症当事者の当事者研究を参照しながら、自然科学的な研究につながりうる「痛み」の新たなモデルを提示するものであった。

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「痛み」は近年哲学や神経科学の領域で注目を集めつつあるテーマであるが、今回の会議では、様々なバックグラウンドを持つ研究者が独自の視点から「痛み」の問題への切り込み方を提示し、「痛み」の研究に学際的なアプローチが不可欠であることを改めて感じさせてくれるものとなった。

(石原孝二)

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