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【報告】アンヌ・チャン連続講演会 "Virtue and Politics"

2011.10.20 中島隆博, 数森寛子, 岩崎正太, セミナー・講演会

去る2011年9月2日-3日、コレージュ・ド・フランスよりアンヌ・チャン教授をお迎えし、「Virtue and Politics」と題する2日間にわたる講演会が行なわれた。

本講演は、その題に表されているように、中国の知的伝統において古代から現代へと続く議論である「徳」と「政治」の関係に焦点をあてたものであった。

アンヌ・チャン氏は、パリで生まれ、エコル・ノルマル・シュペリウールを卒業後、ケンブリッジ大学でリサーチ・フェローを、そしてCNRSやINALCO、リヨン第3大学、パリ第7大学で講師や研究員を務め、1997年にINALCOの教授となる。そして、2008年にコレージュ・ド・フランスの教授に選ばれ、現在に至っている。今回の講演の基礎になっている彼女の大著 Histoire de la pensée chinoise (Paris, Seuil, 1997; reéd. 2002) は、2010年に志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子各氏らの手により日本語訳が刊行されている。(アンヌ・チャン『中国思想史』志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010年

【9月2日(金)Virtue and Politics I: Ancient Chinese Conceptions】
一日目の講演会は、「倫理」と「政治」は切り離すことは可能かという、中国の知的伝統における問いをめぐって展開された。これは、中国思想史の文脈において、統治の「正統性legitimacy」がどのように担保されてきたかという問いであり、具体的には、儒家における「徳virtue」と「政治」の関係を考察するものであった。

チャン氏によれば、孔子・儒家が考える統治形態は、君主の徳による「カリスマ」(ウェーバー)によるものであるという。「徳」は君主から発せられる自然な力であり、君主の個人的なカリスマである。それは、外的な力つまり暴力や強制力の行使に訴えることなく、人間関係の調和をもたらす。つまり、調和と自己調整力を備えた有機的な世界を構想する。政治的責任を背負った「市民citizenship」による西洋的な「統治」概念と比較した場合、それは、トップダウン形式の統治形態である。しかしながら、このような「徳」による統治は、近代国家における「法」的な統治や政治的責任の所在をめぐっての論争を引き起こしていると結論した。

質疑応答のさいには、「徳」概念の翻訳(不)可能性や、日本における統治の「正統性」など、活発な議論が行われた。個人的な感想を書かせていただければ、統治の正当性をめぐる問いは、まさしく丸山眞男の「政統性political legitimacy」の問題圏へと繋がる大変興味深いものだった。なお、孔子と儒家における「徳」の概念については、ご著書『中国思想史』の第二章「人に賭ける孔子」が大変参考になった。(報告:岩崎正太)

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【9月3日(土)Virtue and Politics II: Contemporary Debates in China】
二日目の講演会では、中国における儒教の変遷を軸に、その近代化とアイデンティティー構築の過程が分析された。儒教的伝統は捨て去られるべきであるのか、あるいは新たなる発展が可能であるのか。近代化が「西洋化」と同義であった時代、19世紀から20世紀を通じて、中国はこの問いに常に向き合い続けてきた。

中国では伝統的に、国家は徳によって統治されるという思想があった。それはモラル・エリート(修身内聖)と統治者(治國外王)とが連続したものであるというフィクションであると言える。一方で、西洋の近代国家では、国家は法によって統治される。中国では儒教的伝統が、こうした西洋的価値の受容の妨げとなったという歴史的な事実がある。それでは、中国が近代化を果たすためには、伝統を捨て去り、自己疎外するしか道はないのか。このジレンマの中で、儒教の教えを中国の実際の歴史から切り離すことにより、この思想に普遍的な価値を与え直すことも試みられたのである。しかしそこでは、2000年間続いた専制政治と儒教をいかに引き離すのかが再び問題として現れる。

ディスカッションにおいては、いかなる方法によって、新しいタイプの「徳」と「政治」との関係の創出が可能であるのかが議論された。中国における儒教は、その歴史の中で常に原点からのリコンストラクションが繰り返されている。中国のアイデンティティーは現在も構築され続けているのであり、その構築の運動は決して止まることがないと結論された。
(報告:数森寛子)

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