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時の彩り(つれづれ、草) 138

2011.07.30 小林康夫

友情の7月
まずは京都大学で行われた表象文化論学会で、森村泰昌さんとの対談。

そこで問題になった日本の戦後という歴史の問題を、今度はUTCPに丹生谷貴志さんをお招きして、さらに拡大続行したところからはじまったわたしの7月。丹生谷さんの講演の内容とそれをめぐってわたしとの対論がどんなものだったかは、本ブログ欄に前田晃一さんによる行き届いた、ていねいな報告がアップされているのでぜひお読みください。十数年ぶりに話ができて、同じ時間を別な場所で、しかしどこか密かな連絡がある仕方で「走っている」、さあ、なんと呼ぼうか、〈遠い友〉がいてくれることの幸福を味わいました。

その週には、加藤敏先生の講演会もありました。この6月には、加藤先生が会長をなさっている病跡学会(前橋市でした)にわたしが招かれて、基調講演と言いながら、即興性の強いジャズ・トークをしてきたばかり。先生の方は、パワーポイントの準備も怠りない充実した演奏。こうしてお互いの曲のつくり方を理解しつつ、お互いの〈差異〉を楽しむというのか、そこに友情がありますね。

その次の週は、王前さんの本の出版を契機にした講演会。これもわたしがひとつのきっかけになって王さんの最初の本ができたというわたしにとっても幸福なイベントでした。本という形ができて、そしてこのような講演という表現を通じて、はっきり見えてくる王さんの底力というか、その精神の奥にある見識、いや、パッションというか、に圧倒されました。

そして次の週は、外国の研究者をお招きしてのセッション。The Sourcebookを紹介するメディア・プレゼンテーションの会。これは、ある意味では、わたしのほうからの積極的な友情のジェスチャー。日本の哲学を紹介するこれほど重要な仕事をしてくれた海外の友人たちに応答したい、という気持ちからでした。実は、UTCPのイベントの直前には、カスリス先生、ハイジック先生、ハワイ大学からいらした石田先生を招いて、Sourcebook刊行を記念する茶会を、わたしの友人の茶室で開催したのでした。そして構内でのイベントには国際交流基金の小倉理事長も駆けつけてくれたのでした。長年にわたるたいへんな努力を経てSourcebook を完成させた人たちに、日本人の研究者として感謝をこめた友情を差し出したかったんですね。

翌日は、石田先生の講演もありました。かれのおかげで、わたしは、この5月、ある意味では日本の「戦後」のほんとうの出発点とも言うべき真珠湾を訪れることができたのでした。ハワイという東と西の遭遇の場の重要性は今後ますます増えると思います。ここには未来に続く友情がありましたね。

そして7月最後の週には、ルーヴァン大からいらしたシモンズ先生の講演。実は、かれは、UTCPのWebサイトを見て、そこにPDFになっているわたしの論文を読んでコンタクトしてきてくれたのです。日本に行くのだが、受け入れてくれないか、と。いいですね、こういうの。サイトに外国語の論文をアップしておくと、世界のどこかでそれを読んでくれる人がいる。すばらしいと思います。いまや、そのように世界の研究が交錯している。そしてそれを契機にして、このように人と人が出会う機会が形作られる。シモンズ先生とは、UTCPのマーク・ロバーツさんもいっしょに、講演のあと居酒屋に行ってさまざまな話題を話しあいました。

同時に、その日、実は、カスリス先生がまた駒場に来てくださって、われわれとあたらしい研究プロジェクトを立ち上げる打ち合わせをしたのですが、そのあとには、先日のメディア・カンフェランスに来れなかった『フィガロ』紙の記者のアルノーさんがやってきてSourcebookについてのインタビュー。UTCPのオフィスで、われわれには関係なく、カスリスさんがフランスの記者に答えている光景を見ていると、国際化ってこういうことだよね、と思ってしまいますね。つまり、このように開かれた場!

わたしにとっては、とってもUTCPだった7月なのでした。

夏休み
 8月にも若干のイベントは予定されていますが、例年通り、UTCPは8月1日より夏休みに入ります。

 日本人にとっては、戦後の歴史のなかでも、類のない苦しい、悲しい、つらい「夏」であることはまちがいありません。これを書いている時点でも、今度は、新潟福島の洪水のニュースが続いています。なんと多くの人が苦しみつづけなければならない夏なのか。誰にとっても、楽しく遊ぶための夏でないことだけははっきりしています。ここからどのように続けたらいいのか?———感覚すること、想像すること、考えることを停止することはゆるされない。その自覚を共有しつつ、まさにそのために、8月いっぱいUTCPは夏休みに入ります。

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