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【報告】ジャン=ピエール・デュピュイ「悪意なき殺人者と憎悪なき被害者の住む楽園」

2011.07.13 西山達也, カタストロフィの哲学, UTCP

 2011年6月30日、ジャン=ピエール・デュピュイ氏の講演会「悪意なき殺人者と憎悪なき被害者の住む楽園――ヒロシマ、チェルノブイリ、フクシマ」がおこなわれました。

 この講演会は科学研究費・基盤研究B「共生の宗教へむけて――政教分離の諸相とイスラーム的視点をめぐる地域文化研究」(研究代表者:増田一夫)との共催で実現したものです。

 デュピュイ氏はフランスの理工系グランゼコールのひとつエコール・ポリテクニークの名誉教授であり、アメリカ・スタンフォード大学でも教鞭を執られています。また、フランス放射線防護原子力安全研究所の(IRSN)倫理委員会委員長をつとめられています。これまでに刊行された著作としては、哲学者ルネ・ジラールについての共著(L’enfer des choses, Seuil, 1979; 邦訳『物の地獄』、法政大学出版局)、チェルノブイリの放射能汚染に関する論考(Retour de Tchernobyl, Journal d'un homme en colère, Seuil, 2006)、スマトラ沖津波に関する考察(Petite métaphysique des tsunamis, Seuil, 2005)等があります――『ツナミの小形而上学』は邦訳が近刊予定です。3月11日の震災後には、いちはやく「Une catastrophe monstre(怪物的破局)」という記事をルモンド紙に寄稿しており(2011年3月20日)、ここでは今回の東京大学での講演と密接に関連する内容が述べられています。今回の来日に際し、6月28日には日仏会館でも「極端な出来事の頻度について」と銘打った講演会がおこなわれました。一連の講演を通じて、科学技術にかかわる実務に対して哲学者がどのような貢献が可能であるのか、あるいは科学技術の実務に携わる者が哲学に対してどのような貢献ができるのか、こうした問いへの答えが示されたように思われます。

 なお、講演のタイトルに掲げられた「悪意なき殺人者と憎悪なき被害者の住む楽園」という表現は、ドイツの哲学者ギュンター・アンダースが1958年の第4回原水爆禁止世界大会に参加するため広島と長崎を訪問した際にしるした日記からの引用です。この言葉を手掛かりとして「チェルノブイリの教訓」を具体的に論じた講演第3部では、「低線量の長期にわたる被曝」の問題を考えるうえでの基本線が提示されています。詳しくは、以下に講演原稿(一部省略して読み上げられました)のフランス語版と日本語訳をデュピュイ氏からの許可をいただき掲載しますので、こちらをお読みください。


★★日本語版はこちらからダウンロードしてください (PDF,492KB)★★

★★フランス語版はこちらからダウンロードしてください (PDF, 64KB)★★

 当日は数理科学研究科大講義室がほぼ満員になる盛況でした。皆様にはお集まりいただきありがとうございました。

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(西山達也)

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