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【報告】UTCPレクチャー「空間移動の言語学的研究と意味の共有の問題」

2010.07.05 守田貴弘

「UTCP研究員による研究発表+議論シリーズ」第2回は,中期教育プログラム「近代東アジアのエクリチュールと思考」に所属している守田貴弘が「空間移動の言語学的研究と意味の共有の問題」というタイトルで担当しました.

以下は発表と議論の要旨です.

空間移動の言語研究はTalmy (1985, 2000) による類型論の提唱以来,理論分野を問わず活発に行われています.この発表では,一般に移動動詞と呼ばれている動詞に含まれる経路と様態という概念をいかに言語的に定義し,さらに,移動という言語外現象と言語の関係をいかに扱うのかという問題提起を行いました.

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先行研究では,移動動詞は経路動詞 (path verb) と様態動詞 (manner verb) に2分されています.しかし,分類するための方法は必ずしも明確ではなく,動詞によってはどちらに分類すれば良いのか判然としないこともあります.そこで,私は動詞のアスペクト (終結性/非終結性) と,線状性という概念を用いて動詞の分類を行う分析を示しました.この方法では,言語的な基準に基づいた検証可能な形で動詞の分類を行うことができ,動詞は「移動の結果を表す動詞」(終結的な動詞であり,従来の経路動詞の一部),「方向を表す動詞」(非終結的であり,線状性を含む),「結果と方向の中間」,そして「様態を表す動詞」(非終結的であり,線状性を含まない) に分類されます.さらに,これらの基準は日本語でもフランス語でも使用可能であるというメリットもあります.

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移動という外界現象と言語表現の関係については,現在の類型論では,移動事象を構成する概念を移動物,基準物,移動の事実,経路,様態の5つに分類し,それぞれの言語的な実現を分析するという方法がとられています.これは,外界事象「の中に」,言語の意味とは独立してこれらの概念が存在することを前提とした議論であり,私は,むしろこれらの概念は言語によって事象を意味付けた結果として生じているのではないかという見方を提示しました.これは,動詞分類の方法,すなわち,直観的に理解可能な意味ではなく言語的な特徴によって動詞を分類するという方法から自然に生じる見方でもあります.

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議論・質問では,言語学での分析方法や現在の分析結果に関して質問が活発になされました.特に,「結果と方向の中間カテゴリ」とした動詞の分類については,従来の「経路動詞」の関係や,中間カテゴリというよりも単に両方というだけで,中間的なカテゴリが存在するわけではないのではないかといった指摘がなされました.また,移動動詞として使われている動詞の中には和語,漢語,外来語といった語種の違いもあり,そこにどのような差があるのかという,中期教育プログラムのテーマに直結する問題の指摘もなされました.

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外界事象の認識と言語表現の関係は,おそらく,現在の理論的,類型論的研究の中でモデル化されているほど単純ではありません.言語によって意味を構築し,構築された意味を共有することでコミュニケーションが成功する.この言語の力を再検討し,実証的,科学的な言語分析に生かすことで,言語と世界,世界と人間の関係にもう少し迫れるのではないか.そのような態度で今度も研究を続けていくことで,表面的な結果に大きな差はなくとも,人間にとっての言語に対する理解が深まるのではないかと考えています.

(守田貴弘)

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