Blog / ブログ

 

2009年度終了中期教育プログラム報告会(世俗化・宗教・国家)

2010.05.10 金原典子, 阿部尚史, 渡邊祥子, 世俗化・宗教・国家

2010年3月1日、UTCP中期教育プログラム「世俗化・宗教・国家」の2009年度活動報告が行われた。本中期教育プログラムは2009年度で活動を終えたので、今回の報告会が最終報告となる。

報告会では、まず金原典子(UTCP、RA研究員)により、「世俗化・宗教・国家」という大きな問題を考える際の具体的な方法について、ゼミにおける講読や招聘研究者による講演など、今年度の活動を振り返りつつ、概観する報告があった。

100301_Mid_Edu_Hokokukai_Haneda_Photo_01.jpg

2009年度のプログラムの学問的な課題は、「世俗」「宗教」といった概念を、近代において出現した比較的新しい、歴史的な概念と捉えた上で、その形成過程を、各地域の事例に寄り添いながら検討することであった。

各地域の事例の具体的な検討の前に、近代と、これらの概念形成との因果関係という仮説が、分析枠組みとして提示された。この仮説は、19-20世紀における資本主義の世界的な拡大、国民国家の形成などに特徴付けられる近代化の過程に、各地が巻き込まれる過程で、引き起こされた文化変容の一端として「世俗」「宗教」といった概念の分化があった、というものである。クリスチャン・ウル教授(ベルギー、ゲント大学)の7月の講演では、この仮説が、近代を資本主義の時代と定義したうえで、日本の例にひきつけて検討された。

こうした議論を踏まえ、各国事例の検討が行なわれたが、今年度はフランス(工藤庸子『フランスの政教分離』(左右社、2009年)講読および11月の同教授による講演)、エジプト(後藤恵美氏(日本学術振興会特別研究員(PD))による12月の発表)、トルコ(澤江史子『現代トルコの民主政治とイスラーム』(ナカニシヤ出版、2005年)講読およびハルドゥン・ギュラルプ教授(トルコ、ユルドゥズ大学)による11月の講演)、日本(奥山倫明教授(南山大学)の諸論文講読および12月の同教授による講演)などの例が検討された。

概念形成史の検討は、「世俗」「宗教」といった曖昧に用いられがちな概念を、科学的分析概念として精緻化するために必要な作業であった。これらの分析概念を科学として取り扱う立場は、金原によれば、現代を生きる研究者自身の持つ宗教観などの、政治的・社会的先入観を極限まで相対化する努力をも要求するものである。

次に、阿部尚史(UTCP特任研究員)により、「世俗化・世俗主義とイスラーム」と題して、プログラムにおける成果を踏まえ、イスラーム地域の世俗化に焦点に絞った内容的検討が行なわれた。

まず阿部は、イスラームが政治・経済をも包み込む包括的な法制度を持ち、かつ教会制度を持たないなど、他の宗教に比べて独自の特色を持っていることを指摘する。その上で、近代において、イスラームの特色が西洋近代的な制度に必ずしも合致しないものと考えられるようになったことで、近代とイスラームをいかに両立させるかという課題が、ムスリムによって焦点化されてきたと指摘した。

次に、地域ごとの具体的な事例の検討が行われた。トルコの例では、共和国形成の過程で、世俗主義とムスリムとしてのアイデンティティが、ともに保全されてきたことに特徴がある。政治的リベラリズム、経済発展、ムスリム・アイデンティティの三者をイデオロギー的・政策的に統合することに成功した現代トルコのイスラーム政党の事例は、世俗化は民主主義や経済発展の大前提であると主張し、イスラームがこれらと両立しないとしてきた、西洋中心主義的な発展モデルを修正する可能性もあるという。質疑においては、日本の天皇制や、イスラーム諸国における国家と宗教の関係の諸パターンなどが問われた。

「世俗化・宗教・国家」はUTCPの中期教育プログラムとして、2008年度、2009年度の二年間にわたって活動が行なわれた。プログラムを終えるに当たって、羽田教授から、世俗化というテーマは、政治学、宗教学、社会学、歴史学など、複数の分野にまたがる問題であり、加えて、多地域にわたる検討が必要であることなどが指摘された。

文責:渡邊祥子(2009年度UTCP, RA研究員)

100301_Mid_Edu_Hokokukai_Haneda_Photo_02.jpg


【「世俗化・宗教・国家」プログラムの概要】
現代世界においては、イスラーム復興の運動がひときわ目を惹く。しかし、これはイスラーム教に特殊な現象ではなく、世界全体で同時に生じている宗教復興の一環ととらえるべきではないか。よく観察すると、キリスト教、ヒンドゥー教、儒教などでも同様の運動が見られる。その一方で、一九世紀以来の世俗化という現象が、世界各地で着実に進行している。宗教復興と世俗化というこの対照的な二つの方向性はなぜ生まれ、ともに現代世界で影響力を持っているのだろう。現代世界はこの二つのベクトルによって引き裂かれつつあると理解すべきなのだろうか。二つの相反するベクトルがある社会でぶつかる時(例:ヨーロッパ諸国におけるムスリム移民)、そこに生じる摩擦や反発はどうすれば解消できるのだろう。人類の共生を実現するためには、世俗化と宗教、さらにこれらと関わる国家という三つの要素が、どのような関係を築くべきなのだろう。
これらの問題を考えるために、とりあえず、世界のいくつかの国、社会、地域における世俗化や宗教復興の具体例を知り、それに関する議論や研究を参照することから始めたい。取り上げる国や地域は、参加者の関心に応じて柔軟に考えるが、いまのところ、日本、アメリカ、フランス、エジプト(またはトルコ、イランなど中東諸国)を考えている。

【「世俗化・宗教・国家」プログラムのこれまでのあゆみ】
こちらからどうぞ

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 2009年度終了中期教育プログラム報告会(世俗化・宗教・国家)
↑ページの先頭へ