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時の彩り(つれづれ、草) 079

2009.09.15 小林康夫

 ジャン=クロード・レーベンシュテインさん

この秋の最初のイベントは、12日のレーベンシュテインさんの講演。

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Décorumというたったひとつの語をめぐって、美術と制度との歴史的なコンフリクトを抉り出す、かれならでは充実した講演。同時通訳を入れたけど、結構、難しかったかもしれませんね。

わたしはかれとは1980年ころからの知り合い。なぜかいっしょにパリ郊外のヴァルヴァンで行われた「ステファヌ・マラルメの友の会」みたいものに参加して同じ車に便乗してパリに戻った。そのときトルビアックのかれのアパルトマンにあがって珈琲を飲んだ。家中、一面の本とレコード。かれはわたしとは7歳くらいしか違わないが、これだけの物量の書物を読んでいるのかとパリの若き知識人の勉強量に圧倒された記憶がある。

講演会のあとの懇親会でお喋りをしていて、たまたま話がバロックのことになったときに、突然、そうだ!わたしはモンテヴェルディという作曲家のことをあの日あのときレーベンシュテインから聞いて記憶にとどめたのだ、とまるで、プルーストの「マドレーヌ菓子」のように甦った。失われた時が不意に回帰した。わたしはかれに「オルフェオ」を負っているのだ、と奇妙な感覚だった。

かれは60歳のときに、行政職がいやで大学を早期退職したという。そしてその後、研究を続けながら、同時にあらためて中国語を学んで、15歳のときからの夢であった「老子」の翻訳に取り掛かっているという。持ち歩いているそのノートを見せてくれた。う~ん、そうか、そのような「晩年のスタイル」があるのか、と感動しました。

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(レーベンシュテインさんのノート)

というわけで、大雨に恐れをなしてみなさんお帰りになったので、わたしはその夜、レーベンシュテインさんとふたりで渋谷の居酒屋で日本酒を飲みながらセザンヌの「晩年のスタイル」ほかについて楽しく語りあったのでした。UTCP再開の一夜!
 
 
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