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【UTCP Juventus】 吉田敬

2009.08.10 吉田敬, UTCP Juventus

 UTCP Juventusの四回目は、特任研究員の吉田敬(科学哲学専攻)が担当します。

 特任研究員の吉田です。昨年も執筆しましたので、詳しい経歴については割愛して、現在の研究領域について記すことで、プロフィール紹介にかえさせて頂きます。

 私の現在の研究領域は大きく分けて、(1)科学哲学、(2)社会科学の哲学、(3)神経経済学の哲学と脳神経倫理学、の三つです。まず、第一の科学哲学については、ポパーの批判的合理主義に関する論文をいくつか書いてきました。また、現在は、科学と社会との関係について、科学哲学がかつて持っていた規範的な役割を批判的合理主義の観点から、どのように回復できるのかということに関心があります。これは1970年代以降の科学哲学が記述的になったり、あるいはテクニカルな問題を扱うことに傾斜してきたということと関連があり、その点では、スティーヴ・フラーのような社会認識論者と、問題意識を共有していると言えます。この問題について、活字になっているものはまだありませんが、2005年の日本科学哲学会において、ジョージ・ライシュやフィリップ・ミラウスキーの冷戦期の科学哲学に関する研究について、発表しました。

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 第二の社会科学の哲学については、既に日本科学哲学会ニューズレター私自身のウェブサイトに紹介記事を書いたことがありますので、詳しい説明はそちらにゆずりますが、カナダ留学以来、研究の中心となっています。カナダ・ヨーク大学に提出した博士論文では、社会科学の哲学における合理性問題を扱いました。合理性問題とは、1950年から60年代にかけて、エドワード・エヴァンズ=プリチャードの人類学方法論に対する、ピーター・ウィンチの批判を発端として、英語圏の社会科学の哲学において、繰り返し問われてきたもので、どのように社会科学者は合理性概念の下で異文化、あるいはその側面を記述、そして説明できるのか、またすべきなのかという問題です。博士論文では、五人の論者――ピーター・ウィンチ、チャールズ・テイラー、クリフォード・ギアツ、マーシャル・サーリンズ、そしてガナナス・オベイエセカラ――の合理性問題への回答を吟味し、どの論者も説得力ある回答を提示していないと論じました。その研究成果の一部は、2002年にウィーンで開催された、ポパー生誕百周年記念学会の論文集、Karl Popper: A Centenary Assessment (Ashgate, 2006)や国際誌、Philosophy of the Social Sciences (Vol. 37, No. 3, September 2007)に掲載されました。

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 UTCPに来てから研究を始めたのが、第三の研究領域である、神経経済学の哲学と脳神経倫理学です。私が属する中期教育プログラム「脳科学と倫理」では、脳科学と倫理に関する研究が様々な視点から行われていますが、私は協力行動の神経経済学を哲学的に検討しています。この研究は、第二の研究領域である社会科学の哲学とも密接に関係しており、今年の三月にアメリカ・アトランタで開かれた第11回社会科学の哲学円卓会議でも、社会科学の哲学が協力行動の神経経済学から何を学ぶことができるのか、という観点で、発表を行いました。現在は、国際誌に掲載すべく、原稿に磨きをかけているところです。また、脳神経倫理学については、認知的エンハンスメントに公平性の面でどのような問題があるかを検討し、「認知的エンハンスメントと公平性」という論文として、発表しました。

 以上が私の現在の研究領域ですが、研究の中心になっているのは、科学と社会です。「科学と社会」というと、科学社会学やSTSなどを連想される方がいらっしゃるかもしれませんが、むしろ私の関心は、哲学的に科学や社会をどのように語ることができるのか、そしてその哲学自体は社会とどのような関係にあるのかということです。このような問題意識のもと、UTCPでも研究を進めていきたいと考えています。

吉田敬

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