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【報告】第11回社会科学の哲学円卓会議

2009.03.30 吉田敬, 脳科学と倫理

 3月20日から22日まで、アメリカ・ジョージア州アトランタにあるエモリー大学で開催された第11回社会科学の哲学円卓会議に参加してきましたので、その報告をしたいと思います。

 この会議については既に私のウェブサイト日本科学哲学会のニュースレターで紹介しましたので、発足の経緯などについてはそちらをご覧頂くことにして、今回の会議の報告を始めたいと思います。

 アトランタは朝晩は冷え込むものの、既に春を迎え、エモリー大学のキャンパス内でも満開の桜を楽しむことができました。エモリー大学は一万人程度の学生数ですが、アトランタ市郊外の広大な敷地にあり、上下合わせて4車線が学内を縦断するという、日本では考えられないような環境にあります。キャンパス内にあるConference Center Hotelで会議は開催されましたが、これも非常に充実したものでした。

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 会議の参加者は20人ほどの小さな集まりのため、学会というよりは研究会と言った方が正しいような気がしますが、20日の昼から22日の昼まで、朝から晩までひたすら研究発表を行い、議論するという、かなり厳しいものでした(プログラムは下記をご覧下さい)。参加者の半分は社会科学の哲学において著名な、あるいは現在売り出し中の方々で、例年のプログラムと比べても、充実したものでした。私のような若手研究者が国際的な研究ネットワークを作るという、UTCPの目標の一つを達成する手がかりとするには、数百人規模の大きな学会に参加するよりも今回の形の方が良かったように思います。著名な研究者としては、著作が邦訳されているジェラード・デランティ氏(サセックス大学)、デイヴィドソン研究で知られるデイヴィド・ヘンダーソン氏(ネブラスカ大学リンカーン校)、社会科学の哲学を中国小作農の研究に応用する研究などで知られるダニエル・リトル氏(ミシガン大学ディアボーン校学長)などが挙げられます。また、認知科学・神経科学と社会理論の接点を探る研究などで知られるスティーヴン・ターナー氏(南フロリダ大学)も発表はされませんでしたが、参加されていました。参加前にちょうどターナー氏の論文を読み始めていたこともあり、フロリダからアトランタまでそれほど遠くないのでお会いできるのではないかと期待していましたが、ターナー氏も私の発表要旨を読んで、興味をお持ちだったらしく、色々とお話しすることができました。残念ながらお疲れのようで、私の発表前にお帰りになりましたが、是非お読みになりたい、ということで発表原稿をお送りしたところ、ターナー氏からも関係する論文を(10本!)送って頂きました。今後もメールなどで色々議論を続けていければ、と思います。主催者のうち、ポール・ロス氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)とジェイムズ・ボーマン氏(セント・ルイス大学)は欠席のため、残念ながら会えませんでしたが、アリソン・ワイリー氏(ワシントン大学)やマーク・リスジョード氏(エモリー大学)とは色々とお話しすることができました。

EmoryConferenceCenterHotel.jpg

 以上のような著名な方々以外にも博士号を取って数年の方々や博士論文執筆中の大学院生も参加されていました。そういった若手研究者の中でも、アイザック・リード氏(コロラド大学デンヴァー校)にお会いできたのは、個人的に嬉しいことでした。リード氏とはホテルに向かう乗り合いバスでたまたま知り合いになりましたが、私が2年前に出版した論文を読んで下さっていて、自分の論文の読者にお会いするのは初めてのことでしたのでとても嬉しく思いました。また、リード氏はご発表中に私に言及して下さり、これも初めてのことでしたので、気恥ずかしい思いをしました。

 個々の発表について、ここで一つ一つ説明する余裕はありませんが、チャールズ・テイラーに関するもの、批判理論に関するもの、ドナルド・デイヴィドソンに関するもの、社会存在論に関するものといった具合に非常に多岐にわたっており、社会科学の哲学の多様性を示しています。個人的にはもう少し、現実の社会科学の研究に踏み込んだ発表があっても良かったのではないかと思いますが、その辺のバランスを取るのはなかなか難しいところです。

 私自身はUTCPに来て以来、研究を進めてきた、協力行動の神経経済学について発表しました。始めになぜ神経経済学という分野が現れてきたのか、歴史的・理論的背景を話した後、利他行動の神経経済学における代表的な実験(リリング他、サンフィー他、ド・ケルヴェイン他)を説明しました。その後に、信頼とオキシトシンの関係に関する実験(コスフェルト他、バウムガルトナー他)を紹介し、最後に、これらの研究の中心的な存在であるエルンスト・フェールの「強い互恵性」という考えについて議論しました。発表そのものは詰め込みすぎのところがあり、若干省略する必要がありましたが、全体としてはうまくいきました。最後の発表になってしまったため、既にお帰りになってしまった方も何人かいましたが、聴衆の反応も良かったように思います。質疑応答などに関して反省すべき点ももちろんありますが、成功だと言って、差し支えないと考えています。

 これまでも何度か英語圏で研究発表をしてきましたが、きちんとした研究をしていれば、多少言語が心許なくても評価してもらえますので、日本人研究者ももっと積極的に海外で自分の研究成果を発表するようになってほしいと心から思います。その意味で、国際的に活動できる研究者を養成しようとするUTCPの存在意義は非常に大きいと考えています。貴重な機会を与えて下さった小林・信原両先生に心から感謝申し上げて、報告を終わらせて頂きます。

吉田 敬

11th Annual Philosophy of Social Science Roundtable Program

Friday, March 20

12:00–3:00: EVALUATION AND SOCIAL THEORY
Michael Brownstein (Pennsylvania State University): Conceptuality and Practical Action: A Critique of Charles Taylor’s Verstehen Social Theory
Naomi Choi (University of California, Berkeley): Is Moral Ontology Necessary for Moral Philosophy?: Evaluating ‘Strong Evaluation’
Brian Epstein (Virginia Tech): History and the Critique of Social Concepts

3:00-4:00 Break and transportation to main Campus

4:00-6:00: KEYNOTE ADDRESS
Ken Schaffner (Pittsburgh University): Behavioral and Psychiatric Genomics: How Blank is the Slate?

6:00–7:30 Reception

7:30 Dinner at Conference Center


Saturday, March 21

9:00–12:00: VALUES & DELIBERATION
Gerard Delanty (University of Sussex) and Piet Strydom (University College, Cork): The Challenge of Methodology for Critical Social Theory
Brandon Morgan-Olsen (University of Washington): Epistemic Injustice and Public Reason
Dan Steel (Michigan State University): Objectivity without Value Neutrality: The Precautionary Principle and Anthropology

12:00–1:30 Lunch

1:30–3:30: RATIONALITY, HISTORICAL & METHODOLOGICAL
Elizabeth R. Blum and Rajesh K. Kana (University of Alabama, Birmingham): Conceptual Issues in Psychiatric Disorders: The Curious Case of Autism
David Henderson (University of Nebraska, Lincoln): Rationalizing Explanation and Rationality Naturalized
Carole J. Lee (University of Washington): Methodological Rationalism as Galilean Idealization in Psychology

3:30–4:00 Break

4:00–7:00: SOCIAL ONTOLOGY
Daniel Little (University of Michigan-Dearborn): Thinking Social Ontology
Isaac Reed (University of Colorado, Boulder): Ontology and Anti-ontology in Social Explanations
Malcolm Williams (University of Plymouth): Realism, Causal Analysis and Dispositions

7:00 Dinner at Conference Center

Sunday, March 22

9:30–12:30: ALTRUISM, TRUST, COOPERATION
Bill Rehg (St. Louis University): Inquiry and Solidarity: Implications of Tuomela’s Philosophy of Sociality for Scientific Collaboration
Emma Tieffenbach (University of Geneva): What Money Is: Neither Menger nor Searle, but Somewhere in Between
Kei Yoshida (University of Tokyo): Altruism, Trust, Strong Reciprocity: Lessons from Neuroeconomics to Philosophy of the Social Sciences


ORGANIZERS:
-Mark Risjord (Emory University) – Roundtable Host
-James Bohman (St. Louis University)
-Paul Roth (University of California, Santa Cruz)
-Alison Wylie (University of Washington)

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