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参議院議員・広田一氏来訪―高学歴ワーキングプア支援対策の拡充のために

2009.01.15 西山雄二, 来訪

参議院議員(民主党)・広田一氏がUTCPを来訪され、西山雄二が応対した。来週から補正予算案が参議院で審議されるのだが、若年研究者の正規就業支援事業費に関するヒアリング調査のためである。

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平成20年度補正予算第2号追加案は、選挙向けのバラマキにすぎないと評判の悪い「定額給付金」約2兆円を含めて、総額4兆7千億円が予定されている。その中で「非正規労働者雇用安定対策費」として「若年研究人材の正規就業支援事業費」が約10億円盛り込まれている。これは、独立行政法人・産業技術総合研究所(経済産業省管轄)が、博士号および学士・修士号をもつ若手研究者を、同研究所と企業との共同研究などに活用することで、正規就業に結びつく将来的な取り組みを促すものである。総額10億円を投じて、例えば、無職の博士号取得者を200名救済して、ひとり500万円を給付することで彼ら/彼女らの正規就職が確保される道を開くという方法が考えられるだろう。

広田氏とは今回の施策の具体的な検討だけでなく、大学院の実態、学術研究の将来的な展望、効果的な政策などについて語り合った。

大学院重点化によって、大学院生の数は20年前の7万人から、約26万人と約4倍もに増加している。文科省と大学側の利害が一致して執行されたこの制度変革に対して、誰ががどのような責任をとり、どのような施策を実施するのかが問われている。「自分が行きたくて大学院まで行ったのだから、就職できなくて路頭に迷っても、自業自得。自己責任でしょう」と冷淡に単純化することもできるかもしれない。だが、博士1人を育成するために投入される国費は1億円から1億5000万円である。国民の血税が注ぎ込まれた博士号取得者が、社会の片隅でフリーターとして置き去りにされることは、社会の知的活力として大きなマイナスである。高度な専門的技能をもつ彼ら/彼女らが社会のなかで積極的な役割を果たすことが望ましい。

だから、「なぜ博士号取得者を税金で救済しなければならないのか」という見解をまずは変える必要があるだろう。高学歴ワーキングプアを支援することは、生活保護のように個人を救済することを意味するだけではない。それは、日本の学術研究の構造全体を支援し活性化することにつながるのだ。諸個人の救済の妥当性ではなく、日本の学術の将来的な展望をどのように描くのかが問われている。

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芸術やスポーツの世界と同じく、学術研究の世界もまた、将来を夢見て下積みを重ねる多くの若手の情熱と労苦によって支えられている。授業を受ける学部学生と大学運営に携わる正規教員のあいだで大学院生は研究や教育の面で重要な役割を果たす。若手研究者全員が大学のポストを得られることを目標にとは言わぬまでも、ある程度の期間、若手が安定した研究生活を送ることのできる施策が望ましい。

だから、若手研究者の支援事業において重要なことは、目標を二重に設定し、二重の意味で「責任」概念を考えることである。国民の貴重な税金を使った施策である以上、当然ながら、数値目標を設定し、その結果を広く説明する責任が必要となる。具体的に何名の若手が就職できたのか、企業側に院生の好印象を与えることに成功したか、など具体的な成果が必要である。しかし、個別の成果とは別に、その成果がいかに低調なものであっても、日本の学術研究全体を底支えするという大局的な視点もまた大切である。短期的な視点で目に見える成果を要求するのではなく、この困難な時代のなかで、学術研究はいかなる希望を紡ぎ出すのか、といった問いに応答するために学術支援を実施する必要があるだろう。

若手研究者の支援事業においては、それゆえ、諸個人の結果に基づく説明責任(accountability)と学術の将来に対する応答責任(responsibility)という二重の目標と責任を考慮しつつ、長期的な視野で支援を継続させることが理想的である。

高学歴ワーキングプアの現状を理解しようと大学の現場に足を運んでいただき、積極的に対話をしていただいた広田議員には心より感謝申し上げます。

(文責:西山雄二)

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