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中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第8回報告

2008.10.05 └セミナー4:ベシャラを読む, 西堤優, 脳科学と倫理

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション8の報告です.

Neural Mechanisms of Willpower

【本文要約】
  前頭前野の機能の進化には、遠い将来に起こる出来事の表象へアクセスする能力の漸次的な向上が関係しているようである。この「未来派」の能力の強化は、前頭前・腹内側皮質のどちらかと言えば吻側部や腹側部方向の発達と一致する。ヒトとヒト以外の霊長類の前頭葉の比較研究から明らかなように、ヒトの前頭葉のサイズ、複雑性、結合性における重大な進歩と主に関係しているのは、ブロードマンの10野(前頭極)であって、腹内側皮質の後部はあまり関係がない。これが理由となって、行動と認知を制御する一般的な二つのメカニズムの間には違いがあると論じられることにもなったのである。

(1) 計画した行為に従事する前に、その行為の結果を考えようとする傾向性を反映した意思決定。
  この種の意思決定には、事実と価値についての知識が必要であり、遠い将来に起きるかもしれない(あるいは、起きないかもしれない)結果を意識的にじっくりと努力して熟慮する必要がある。

   例)薄暗い道で10万ドルが入った鞄を見つけたとしてみよう。
   →このお金をネコババするにしても、しないにしても、そうした行為の決定に際しては、倫理や道徳について、またそのような行為の結果について多少は考えることになるだろう。

   ・この制御メカニズムにとって決定的に重要な神経領域は、前頭前・腹内側皮質のより前方の領域、つまり、前頭極とブロードマンの10野を含む領域である。

(2) 衝動的な制御は、非常に優勢な行為の抑制(運動における衝動制御)や、非常に優勢な心的な心像あるいは思考の抑制(注意における衝動制御)を反映する。
  非常に優勢な行為(あるいは思考)の迅速かつ自動的な抑制の学習は、行為の結果の直接かつ明白な特徴を信号として伝えるソマティックな状態の誘発に大きく依存している。

    例)銀行で机の上に広げられた10万ドルを目撃したとしてみよう。
    →お金をひったくろうという考えや意図や衝動は、自動的に何の努力もなしに抑制されるのが普通である。

   ・運動における衝動制御のメカニズムにとって決定的に重要な神経領域は、前頭前・腹内側皮質のより後方の領域、つまり、前帯状回を含む領域である。
   ・注意における衝動制御のメカニズムにとって決定的に重要な神経領域は、眼窩前頭の外側領域と背外側領域(下前頭回)である。

【講読に際して議論された点】

  • 本文を日本語に訳す際、「representation」は特に脳の中の表現のことなので「表象」、「cognition」は「認知」、「engage in」は「~に従事する」と固定的に訳したほうがよいという指摘があった。

  • ブロードマンの脳地図では、大脳新皮質全体が、細胞構築の違いに応じて52の領野に区分されている。

  • 実際に行為するのに先だって、計画した行為についての考えを意思決定に反映する場合、予測された結果が実現される確率についての知識が大きな影響をもつのではないか、という指摘があった。たとえば、拾ったお金をネコババして、そのことが将来発覚する確率を1%未満と見積もるなら、その確率を70%と見積もる時よりも、実際にネコババしてしまう確率は随分と高くなるのではないだろうか。このような議論から出発して、確率と将来予測との結びつきをめぐってさらに議論が展開された。

  • 眼窩前頭のdorsolateral(背外側)と inferior frontal gyrus(下前頭回)が同じ部位とされるのはなぜかについて疑問が残った。
  • 報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)

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